甘酒
「内勤の、ぬるま湯につかった中忍風情が」
押し殺した声の、言葉の刃がうみのイルカを襲った。
両隣に座っていたアオバとイワシが、腰を浮かしかけた。
イルカは、視線だけでそれを宥める。
受付では、よく有るわけではないが、珍しいことでもない。
怒り、悲しみ、苛立ち、不安、不満。
そうしたものを、直接の窓口にぶつける。
そんな忍は、中忍が多かった。
上忍や特別上忍は間違っても、受付で暴言を吐くことなど無い。
下忍もまた、そこまでの余裕も無い。
ある程度の能力も経験もあり、年齢もそこそこに重ねた中忍。
それが、同じ中忍に向かって嘲る言葉を投げる。
甘えであり、自嘲である、とイルカは理解していた。
理解したからといって、感情が許すわけではないが。
「お疲れ〜」
緊張したその場にそぐわない、のったりした声が、言葉の刃を放った中忍に掛けられた。
ぽん、と肩を叩き、振り返った頬に缶を押しつける。
「か、カカシさんっ」
中忍の声が裏返った。
そちらだけ外気に晒した右目を弓なりにして、はたけカカシは、ゆったりと笑う。
「みんなもお疲れー。はい、あげる」
受付の人数分、カカシは缶を転がす。
「気が利くな。甘酒か。おれ、甘がつかないのが良かったなあ」
アオバが、わざとのように明るく言った。
「おれは、甘がついて良かったっす」
イワシは、両手に缶を持って、ぶんぶんと振る。
「あ、特にお疲れのイルカ先生には、もひとつ、あげます。オレも、甘がつくものは、だめなのよねえ」
「ありがとうございます」
カカシに渡され、イルカは、右手と左手に甘酒の缶を持つ。
手があたたまると、心も温まるようだった。
甘酒の缶をかかえ、受付の様子をぼんやりと見ていた中忍は、不意に肩を震わせた。
「す、すみません、カカシさん。イルカ、すまん。……おれのとこの若いの、まだ、十五、だったんだ。連れ、かえ、やれなかっ」
しゃくりあげる中忍の肩を、カカシは抱いた。
そのまま、黙って泣かせてやった。
その日、とうに夜半を過ぎて。
寝台で思いきり愛しあった後、イルカはカカシに文句を言った。
自分じゃない男を抱きしめるなど、許せない、と。
甘酒で酔っ払った? とカカシは、くすくす笑った。
余裕の態度に腹が立ったので、イルカは、カカシの頬をむぎゅっと引っ張り、カカシさんが抱きしめていいのは俺だけです、と火影よりも偉そうに威張った。