歌っているのは、誰?

カカシの歌が上手いのは、お母さんに似たからだね、と、はたけサクモは言った。
幼い息子、カカシの手を引いて歩きながら。
カカシは、一度、聞いたら正確に綺麗に、旋律を再現することが出来た。
お父さんは、あんまり歌わないね、とカカシは答えた。
へたくそなんだよ。父は笑った。
カカシが歌うのを聞いてるかーらね。
父に促されるままに歌いながら、お父さんも歌ってくれるといいのになあ、とカカシは思った。

「ん、カカシくんは、歌が上手いねえ」
金髪の先生が、感心したように言った。
「そんなこと、ないです」
カカシは口をつぐんでしまった。
「なんで、やめちゃうの? もっと聞かせてよ」
「オレ、歌うの、きらいです」
かたくなに、カカシは答えた。
「もったいないなあ。上手なのに」
先生は本気の声で言って、自分で続きを紡いだ。
つられるように、カカシは旋律を追う。
にっこりと笑って、先生はカカシの手を握ってくれた。
一緒に歌うのはいいなあ、とカカシは思った。

「いいか。先生の後について歌えよ」
こどもたちを先導して森の小径を行きながら、響きの良い声が歌う。
「あーめ」
「あああめええ」
幼い声が合唱する。
「が、降れば」
「があ、ふうればああ」
木の上からその様子を眺めて、あんなふうに歌われる唄は、なんとも幸せな唄だなあ、とカカシは思った。

オレがこどもたちに混じって歌ってみたら、あのひとは、どんな顔をするだろう?

こどもの声に紛れきれない、綺麗な歌声に。
そのひとは輝くように笑んだ。
そして、黒髪の尻尾を揺らして上空を見上げ、言う。
「歌っているのは、誰?」

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