「イルカ先生〜。おやつを買ってきました〜。ドーナツです」
カカシの提げた袋を見て、イルカは呆れたような表情になった。
「それって、あの木の葉屋のですか?」
「そうですよ〜」
カカシは、にこにこしている。
木の葉屋は、商店街の外れ、イルカのアパートに近いところにあって、今時、コロッケ一枚20円(特売日には10円)、やきとり一本50円、弁当ひとつ250円など、リーズナブル(過ぎる)のが売りの揚げ物屋である。
値段が強烈な魅力なので、イルカもよく利用する。
だが、値段は値段で、味はそれなりである。
使用している油も、決してエコロジーな感じはしない。
「俺も帰りに見たんですけど。そのドーナツ、家庭で失敗したような形の」
「そうですね〜」
「きっと、あれやこれやを揚げたあとで、そのままの鍋で揚げたであろう」
「たぶんね〜」
「胸焼けを呼ぶことが確実視される代物ですね」
「もう、最高ですよね〜」
カカシは、うきうきしている。
イルカは嘆息した。
木の葉の里が誇るスーパーエリート忍者は、究極の変なモノ好きである。
だから、自分を恋人に選んだりするのだ。とイルカは思っているのだが。
「食べましょう〜」
「絶対に嫌です」
いくらカカシでも、これは付き合えない。
「え〜。凄いですよ〜、きっと」
「だから、嫌です!」
イルカは断固、拒否し、カカシが一人で平らげた。
結果。
その夜のうちに、胸焼け、胃痛に悩まされ。
次の朝には、口の周囲にでっかい吹き出物が出て。
髪や毛穴から、木の葉屋の油の匂いがするのだった。
その効力に、イルカは木の葉屋のドーナツを、武器として申請してはどうだろう、と真面目に検討したのだった。
「木の葉屋の、他のはともかくとして、ドーナツは二度と買わないでくださいね」
そう厳命してイルカは、休みの日にドーナツを揚げた。
カカシがあの形に魅了されたのだと、わかっていたから。
カカシが知っているのはホテルやレストランで出されるようなもの。
目前で揚げられる歪な形など、知るはずもなく。
イルカは器用ではなかったし、料理も得意ではなかったから、木の葉屋のものより数倍も、奇怪な形と味のドーナツになった。
だけど。
胸が焼けるんじゃなくて、きゅんときますね、とカカシは全部を平らげた。