カカシは正面からイルカの顔を見ようとはしなかった。
嫌われたり、疎まれたりしているのではないことは、口布で隠れきれない頬の部分が紅潮していることでわかる。
いつも緊張して、照れているらしい。
イルカに対するカカシの口調は、格下相手なのに丁寧な敬語だった。
幼い頃から天才ともてはやされてきただけに、かえって人慣れない純粋な人なのだな、とイルカはカカシのことを判断していた。
ナルトたちを中忍試験に送り出すや否やで争った後でも、さらに和解した後でも、そう思っていた。
カカシが全然、そんな人ではなくて、それはイルカと接するときだけで、つまりは恋ゆえのはにかみであったことを知って、イルカは熱を出すほど驚いた。
「気付いてなかったんですか? かけらも?」
カカシはあきれたように言う。
それが告げられるような関係、そういう関係になってからのことだ。
「気付くわけないじゃないですか。生徒にも、そういう子はいくらでもいますし。受付だって、依頼人も忍も緊張してる人、多いですから」
イルカの額を冷やしながら、カカシは神とも何とも知れぬものに感謝した。
早い話。
イルカは好意を抱かれるのが当然のもててもててしょうがない状態であったので、いつものこと過ぎて、ちょっとやそっとの素振りやアプローチはまったく気付いていなかったのである。
良かった。誰よりも先に勇気を出して。
カカシは、熱い、単に熱があるからであるが熱い、イルカの唇にそっと己の唇を合わせて安堵した。