母に命じられイルカは、四代目のところへ届け物に行った。
このお使いは歓迎だった。
若くて強い四代目が、イルカは大好きだったのだ。
火影宅の扉を開け、大声で呼ばわりながら、内に入っていく。
「よお、イルカ。使いか。偉いな。ちょっと待ってろ」
居間にいた四代目は、矢継ぎ早に言う。
紅筆を持った四代目の眼前に、艶やかな着物をまとった、おそろしいまでに美しい少女がいた。
イルカは、ぽかんと見惚れた。
形良く結いあげられた銀色の髪。
硬質な光をはじく、濃紺の瞳。
少女は黙って、四代目が、彼女の唇に色をつけていくのに、身を任せている。
イルカは、ひどく衝撃的な場面を見たように、思った。
全身が熱く、特にお腹のあたりが何かを打ちこまれたような感覚がした。
「じゃ、俺、帰ります!」
不必要な大声で言うと、逃げるように、イルカは去った。
それは初恋だった、とイルカが気付いたのは、何度も彼女の夢を見てからだった。
ほんの瞬間しか、姿を見ていないのに、夢では異常に鮮やかだった。
ずっとずっと、彼女を探して歩いた。
「へえ。初恋は実らないものだって言うけど、イルカ先生は実ったんですね〜」
イルカの想い出を聞いたカカシは、のったりと言う。
「どこがですか!」
イルカは、半泣きである。
「だって〜。それ、任務に出るため女体変化して、先生に化粧してもらってたオレですし。それで、オレたちは今、恋人同士ですし〜」
「こんな、ひどい破れ方も無いです!」
イルカは、本泣きになった。
さて。イルカの初恋は実ったのか破れたのか。
なんのかんの言っても現在が幸せそうだから、どっちでもいい、というのは里中の弁。