道を行く銀色の髪のこどもは、金色の髪の男に手を引かれ、至極満足そうであった。
対して、男は何やら困惑ぎみである。
「カカシ、ど―しても、この服じゃないと、ダメなのかよ」
「うん。これが、いちばん好き」
「あ―、好きなのはわかってっけどよ」
男は嘆息する。
こどもの、白地のTシャツには、河馬ともサイとも象ともつかない生き物が描かれていた。
「先生が描いてくれたので、これが、いちばん格好いい」
「やめてくれ〜。俺が、ものすごおく絵が下手みてえじゃないか」
金髪の男は、こっそり周囲を見まわしながら、情けない声を出す。
「俺は、世界征服を企むネズミでも、人気者の機関車でも、25粒入るハムスタ―でも、バッタ屋もびっくりなくらい、上手く描けんだぞ。普通の象なんて、皺までリアルなのから、商売物くらいかわいいのまで、いくらでも描けんだ!」
「でも、これが、いちばん、いいよ」
「おまえの趣味てのか、美意識てのか、それが心配だよ、俺は」
男は、再度、息を吐いた。
師の不安は的中し、カカシは平均とはちょっと、いや、かなり違う趣味を持ったまま成長した。
「……カカシさん、麻雀牌柄のTシャツなんて、どこに売ってんです?」
待ち合わせに現れたカカシの胸元をまじまじと見つめ、イルカは、どんよりとした声を出す。
「木の葉商店街の中程に、木の葉屋って店が」
「そういうことでなくて!」
「イルカ先生のも買ってありますよ。あとで、あげますね」
イルカは、全身が脱力するのを覚えた。
こういう趣味の人に。
かわいいとか愛らしいとか好きだとか恋しいだとか。
おっと、後の二つはおいといて。
本気で言われる自分は、かなり変なものなのだろうなあ、とイルカは悲しくなる。
でも、まあ。
こんな服を着てても。
いや、これが引き立たせて。
カカシさんは格好良くて、綺麗だ、と真剣に感じている自分の趣味も。
充分に、変なのだろうなあ、とイルカは思った。