武器には、いろんな種類がある。
その一族は、美貌を刃とした。
容貌の美しいもの同士を交配させ、さらに美しい者を産みだし、その美しさで人を惑わせる。
そのなかでも、絶世とされる両親から生まれたカカシは、忍の才まで天与されていた。
それが為に木の葉の里に預けられ、結果として、彼は一族最後の生き残りになってしまった。
「でも、オレ、そういう容姿ではないんですけどね」
お茶を啜りながら淡々と言うカカシに、イルカは湯のみを割りそうになってしまった。
「カカシさんほどの人が、そんなことを言うと、謙遜ではなくて、嫌味です!」
「オレも謙遜してるつもりは、ありませんよ」
きょとん、とカカシはイルカを見返す。
「オレ、髪も金色じゃないし、瞳も空色じゃないし。美しい顔じゃないでしょ」
ぽかん、とイルカはカカシを見返した。
そして、イルカは茶を飲みほし、気持ちを落ち着けて、正座をしなおす。
「カカシさん、もしかして、美形というのは、四代目のようでないといけない、とか思ってませんか?」
「四代目を美形って言うんでしょ? 中身はともかく、見目形は、誰も文句のつけようが無い人でした」
「四代目とは全く違うから、ご自分は美形ではないと?」
「違うんですか?」
不安になったのか、カカシは、イルカを下から掬いあげるように見つめる。
ええい! 無意味にフェロモンを垂れ流すんじゃねえ!
イルカは心で叫び、立ち上がった。
「カカシさん! そこへお座りなさい!」
「座ってますけど?」
「なら、いいんです。いいですか、長くなりますよ」
宣言してイルカは、カカシの一族の歴史から始まり、いかにカカシがその血を濃く受け継ぐ者か、つまりはどれだけ美形か、を、とうとうと説いた。
カカシは神妙に拝聴していた。
「というわけです。わかりましたか」
肩で息を継ぎながら、イルカは話を結ぶ。
「はい、わかりました」
カカシは、にっこり笑って立ちあがり、イルカを抱きしめる。
「ありがとう。オレのことを、そんなふうに言ってくれて。……好きになってくれて。アバタもエクボって、ほんとうなんですね」
「だ〜か〜ら〜」
イルカは、カカシの腕のなかで、じたばたとする。
「違うんですか? イルカ先生は、オレのこと好きでないの?」
なんとも悲しそうな声を、カカシは出す。
「そうではなくて。好きですよ。好きですけどね!」
そこまで語を紡いだ段階で、イルカの唇は、カカシのそれに覆われてしまった。
熱い感覚に、イルカは、まあ、いいかと思ってしまった。
カカシの素顔を見るのは、自分くらいだし、と。
そうそう、無用な混乱を避けるために、外では決して口布を取ってはいけない、とだけは、言い含めなくては。
そんな考えも、やがて、波に呑みこまれていったのだった。