犬も食わない
 
ナルトが旅立ったあと、ありあまる庇護欲をカカシ一身に注いでいるイルカである。
任務から帰ったカカシがいくらか痩せたこと、任務内容の割に兵糧丸の減りが早いこと、にすぐ気付いた。
「あ〜、やっぱり家はいいなあ〜。すへらっ?!」
シャワーを浴びて出てきたばかりの半裸に抱きつかれ、カカシは妙な声をあげる。
イルカは腕の感覚を確認して、重々しく頷く。
「この痩せ方と、兵糧丸の減り方。カカシさん、あなた、任務中、ろくに食ってませんね」
「そんなことは…」
任務外で嘘をつくのは、格段に下手なカカシである。
「兵糧丸て代用食じゃないですよ? ちゃんと食ってなきゃ意味ないんですよ? わかってるんでしょ?」
畳み掛けられ、カカシは後ろ頭を掻く。
「食糧事情の悪い所でしてねえ」
カカシは、言い訳がましく呟く。
「そういうとこでも、保存食は持っていってるし、あなたが調達できないはずないでしょう」
イルカの追及はゆるまない。
「オレはね。オレは、そうですけど、ほら、一般人が飢えてて。…ナルトやサスケくらいの年頃の子でもね、ガリガリでちっこいんですよ」
「なるほど、それで、得た食糧は、みんな、こどもたちにやってしまった、と。任務遂行に的確な判断とは言えませんね」
「そんなこと言いますけど!」
カカシはいきなり反撃に出た。
「イルカ先生だって、そこに行ったら、オレと同じこと、いや、それ以上にやりますよ! そう思うと、あなたがいなくて良かったな〜」
「何が良かったですか。俺とあなたを同じに考えないでください! 俺はいいんです! アカデミーの講師だし、中忍だし!」
「なんで、そこで中忍だからいい、になるんですか!」
「上忍は、もう上忍というだけで里の機密でしょうが。あなたは、まずあなた自身を守ることを、第一にせにゃならんのです。まったく。それが全然、わかってないんだから」
「あ〜、その論法だと、イルカ先生は自分を守らなくていいってんですか」
「俺は中忍ですから」
こんなに中忍であることを威張った中忍は里の歴史の中でもないだろう、というくらいに、イルカは胸をそらす。
「階級差別、反対! イルカ先生こそ、自分を守らなさすぎです!」
「なに言ってんですか。里の機構に文句をつけるんですか。上忍が」
「だから、いま、上忍、中忍、関係ないでしょ」
言い合いは、そのまま泥沼化し、なぜか、隠れ里の、ひいては忍者の存在意義にまで話は発展したのだった。
 
「イルカ先生ときたらさ〜。任務から帰ってすぐ論争を仕掛けてこなくてもさ〜」
上忍控え室で、カカシは、アスマと紅を相手に愚痴をたれる。
「へえ。あんただけじゃなくて、イルカ先生も理屈っぽいの?」
紅が意外そうな声音で言う。
「理屈ぽいというか、頑固で、引かなくてさ〜」
アスマが口から煙草をはなして笑った。
「紅、真面目に聞くこたあ、ねえぜ。どうせ、西風と同じなんとやらで、夜になったら収まったんだろうよ」
夫婦喧嘩と西風は、夜になったら収まる、という俗諺は、忍の隠れ里、木の葉の里でも通用する。
カカシが反論もせず、見えている頬がかすかに染まったのを確かめ、アスマは、
「めんどくせえ奴ら」
と得意のせりふを言った。
 
 
 
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