「世の中なんざ、何でも有りなんだよ」
くしゃくしゃになった金色の髪に手をやり、紫煙を吐きだしながら、男は言った。
「なにしろよ、このオレが、火影の四代目に、なるくれえだからよ」
「四代目。禁煙は、どうなってるんですか!」
銀色の髪をした、細い少年が声を荒げる。
「カカシ、考えてみろっての。儀式、任務、の後で徹夜の書類整理。煙草でも吸わなかったら、オレあ、気が変になるぞ」
「吸いすぎで、身体のほうが変になります」
「オマエ、オレが育てたはずなのに、なあんで、そんなに真面目なんだかなあ。お、そうだ。いいこと考えたぞ。オマエが五代目になれ。で、今すぐ継承式、やろう」
「逃避行動は、やめてください。もうすぐ、花の国の使者の方がお着きだと、相談役から」
「へえへえ。警務部隊に、警備強化の指示、出して」
「強化してます」
「ほんと、優秀な天才忍者には困るよ。やっぱりオマエ、火影、やんねえ?」
「やりません。歯を磨いて煙草の匂いを消してくださいね。あと、シャワーを浴びて、髪をなんとかして、正装に着替えて」
「ほんと、何でも有りだわ。つい、こないだまで、オレがオマエに、そうやって口うるさく言ってたのにさ」
四代目は呆れたように言ったあとで、明るく笑った。
「ほんと、何でも有りだよなあ」
カカシは、包帯で覆われた左目を上から押さえ、呟く。
まさか、四代目火影がいなくなる日がくるなど。
まさか、自分が写輪眼になる日がくるなど。
想像してみることさえ、出来はしなかった。
「世の中って、何でも有りですよ」
険しい顔で腕を組むイルカに、カカシはへらっと笑う。
「正直に言いなさい。パチンコに行ったんでしょう!」
「違いますって。ほんとうなんです。木の葉商店街の真ん中で、二〇人以上のおっさんたちが煙草を吸ってたって。最近、肩身の狭い喫煙者の決起集会だったらしいんですけど。で、その横を通り抜けただけで、服に、こんなに煙草の匂いが」
「こどもでも、もう少しマシな嘘をつきますよ!」
「ほんとうです」
「だから、パチンコに行ったって認めなさい。別に負けたなら負けたで、いいですから。煙草を吸わないカカシさんに、こんなに煙草の匂いがつく理由、他にないでしょうが」
「いや、二〇人以上のおっさんが」
本気で怒りかけてきたイルカを、カカシは腕に抱きこむ。
「イルカ先生。世の中、一見、信じられないようなことも、何でも有りなんですよ」
なあんにも無いと思っていたオレに、こんなに大切な人が出来て、幸せになれるくらいにね。
カカシが耳に囁くと、一瞬だけイルカは怒りではないもので、頬を朱に染めた。
その後に予定通り、さんざん叱られたのだったが。
―世の中なんざ、何でも有りなんだよ。―