「は〜、イルカ先生んちは落ち着くな〜」
額当てもしていない、忍服ではない私服だから、もちろん口布もない、いかにも休日、という寛いだ姿でカカシは茶を啜る。
「いいですけどね。俺、やること溜まってるんで」
おざなりに茶を出したなり、イルカはくるくると動きまわって、家事をこなす。
それを、カカシはうっとりと見つめている。
「い〜な〜。休日の昼間、妻が夫のために家事をこなす……」
「誰が妻で、夫なんです!?」
イルカはチョークを投げつける。
それを軽く宙で受けとめ、カカシは呟く。
「……なぜチョークが?」
「教師の心得です! 懐にはいつもチョークを」
「やな心得……」
カカシは、のっそりと立ちあがり、イルカを後ろから抱きすくめる。
「ちょ、ちょっと、どこ、触ってんですか!」
「ん〜、安全の為に武器は没収しとかないと」
カカシは、イルカの胸元からチョーク箱を取りだす。
「……ほんとに常備してんですね。しかも、白、黄、赤、緑、紫、きれーに一本ずつ」
「ああ、これね」
イルカはふわりと笑う。
「教場に箱を忘れてったんですよ。そしたら、生徒が、先生、忘れてましたよって、職員室まで届けてくれて。しかも、小さくなってたから新しいの補充しておきましたって。開けてみたら、色とりどりに一本ずつ入ってて。なんか可愛いでしょう? これは、そのまま使わないで持ってるんです。あ、さっきのも返してください」
「可愛いって言うイルカ先生のほうが、可愛いです」
カカシはイルカを、ぎゅうと抱きしめる。
「やめてくださいって」
イルカがどんなに抵抗しようと、カカシは手を緩めない。
「やめなさいって言ってるでしょうがっ」
イルカは手近の辞書をとり、その角でカカシをぶつ。
「っってえ。イルカ先生〜。辞書は引くものであって殴るものではないです〜」
「一度やめろって言ってきかないからでしょう」
イルカは、さっさと家事に戻る。
軽く肩をすくめて、カカシは微笑する。
「そういうところもね、好きですよ」
小声で言う。
イルカがふりかえる。
「はい? 何か言いましたか?」
「い〜え。何を手伝いましょう?」
「あ、じゃあ、新聞をまとめてください」
「了解」
平凡な生活。
家庭。
欲しくて欲しくてたまらなくて、でも、手に入れることが出来なかったもの。
それが、今、ここにある。
あなたとともに。
素敵な、素敵な日々。
ねえ、あなたと二人でいる限り、こんな素敵なデイズはずっと続くよ。