保存食は、ひどく不味かった。
おかしいな、とイルカは首をひねる。
下忍の頃から戦場にはかりだされてきて、馴染みの携帯食糧であるし、昔と比べると品質もずいぶん改良されて、食べやすくなっているはずだった。
ああ。
理由に思いあたり、イルカは微笑する。
最近は、贅沢な食事ばかりをしていたせいで、舌が肥えてしまったのだ。
贅沢といっても、上等の食材で作られた高級な料理ではない。
愛する人が愛する人のために調理したものを、向かい合って摂る、最高に贅沢な食卓。
カカシさん。
そのひとの名を、胸のなかでだけ呟き、イルカはエネルギ―の素を飲みこむと、立ちあがった。
「行くぞ。日が暮れる前に合流点まで辿りつく」
授業できたえた、しかしアカデミ―の生徒に対するのとは違う、冷徹な声音を出す。
同時に、いくつかの気配が飛んだ。
里は、守る。
火影が作り、守ってきたこの里を。
卑劣な攻撃などで、潰したりはしない。
この里がなくなるのは、軍事力としての忍がいらなくなった世界が出来たときだけ。
それまで、明日へと渡すため、守るために戦う。
大蛇丸襲撃後、三代目を喪い、忍の士気は、かつてないほど上がっていた。
それでも。
病み上がりで任務に出た恋人や。
自覚せずに大役を担っている、愛しい教え子や。
彼らだけは無事で、と願うエゴイスティックな心を、イルカはおさえることが、出来ずにいた。
受付で、報告書を出す側にいるのは、妙な感覚だった。
受理されて、出ていこうとしたところで、写輪眼のカカシとすれ違った。
すれ違うだけだった。
激務は、言葉を交わす間さえ許さなかった。
だが。
印を切るような速さで。
カカシが。
イルカの唇に自分の右手の人差し指を当て、口布を降ろして、自分の唇に当てる。
イルカも、同じ動作をした。
やはり、印を切るような速さで。
短い微笑を交差させ、離れていく。
だが、それだけで。
今の感触を覚えている限り、あの保存食も美味になるだろう、とイルカは思った。