視る情忍
はたけカカシは、どこかで知っていた。
イルカの視る力をもたらしているのは、自分の血であろうと。
父のサクモは視えた。
その内容を、カカシに語ったことは無かったが。
カカシにその力が無いことを、サクモは喜んでいた。
見えないものは視えないほうがいいんだよ。
よく、そう言った。
イルカがカカシの受信機となっているのだとしたら。
どこまで、自分は、大事な人を苦しめる存在なのか。
こんなに愛しているのに。
「俺、何か言いましたか?」
正気に返るなり、イルカは不安と期待がないまぜになった表情で訊ねる。
その不安を取り除いて、安心させたかった。
だが、カカシに嘘を言うことは許されない。
「何も」
イルカは、枕に突っ伏す。
確かに、かつてないほどイルカの千里眼に頼りたい状況だった。
やり手の工作員が暗躍していた。
亡くなった三代目に続いて、五代目火影にだけはイルカの能力を報告している。
その綱手が、焦れるあまりに言い出す始末だった。
イルカは、なんか視えないのかい?
祈祷でもするか?
「俺って、ほんと、肝心のときに役に立たねえですね」
イルカは、落胆した顔を隠さない。
「いや、オレのせいです」
カカシは、イルカの長い黒髪を梳く。
言葉にならないまま、はっきりした形にならないまま、拘っている何かがある。
だから、セックスに集中しきれていないのだろう。
イルカは、カカシの唇にキスを仕掛けた。
「独りで抱えこまないでください。俺に、ちゃんと分けてください」
触れて、すぐに離れ、イルカは言う。
「そう、だね」
カカシはイルカを抱きしめる。
自分は決して、父のようにはならない。
己に言い聞かせた。
独りで逝ったりはしない。
残したひとを悲しませたりはしない。
見えないものは視えないほうがいいんだよ。
父の声が、脳裏に蘇る。
「見えないものは、視えないほうがいんです」
カカシは言った。
写輪眼だけで、充分だ。
そう思った。
忍者らしからぬほどの地道な作業と調査で、カカシたち暗部は工作員を突きとめ、捕獲した。
血継限界を持つその工作員は、他人の記憶を操作することに長けていて、それを任務に生かしていたが、あまりに操りすぎて、自分の記憶を混乱させ、自滅に向かったのだった。
世の中というのは、つくづく、プラスマイナスゼロになるように出来ている、とカカシは皮肉に思う。
処理も片付き、久しぶりにゆっくりと腕にいだいた情人は言った。
「さくら。だんご。さくらもち」
カカシは笑った。
これは、視えるというより願望だ。
「お花見に行きましょうね」
イルカの、鼻の頭の愛しい傷にキスをする。
愛するひとと。
目に見えるものを視よう。