視る
性行為のさいちゅうに、不意に、イルカが目を開くことがある。
いつまで経っても馴れないイルカは、セックスの間じゅう、固く目を瞑っているのが常なのだが。
イルカが目を開いたなら、カカシは、その黒い瞳を真正面から、或いは真上から、覗きこむ。
「霧忍……。霧の額宛。あ、でも、薬売り…」
カカシは眉をあげ、唇を引き結ぶと、ひたすらにイルカを攻める。
「ああっ」
深く抉られ、穿たれ、イルカは声をあげて達した。
イルカの、その能力はカカシしか知らない。
身体を繋ぐことによって、相手の精神沃野にまで、イルカは繋がれてしまうらしい。
だが、記憶や思考を読むだけはなく、過去視、未来視までもイルカは為してしまう。
イルカが絶頂に口走ることが、妙に、そのときに自分がかかえている懸案事項と重なることにカカシは気付き、試しに、それに従って行動してみたら、まさにその通りだった。
それが、偶然とは言えない回数、続いた。
イルカは、俗に言う千里眼の持ち主らしい。
或いは。
カカシは考える。
自分が考え、はっきりとは纏まっていない事柄が、イルカに透視され、言葉となって出てくるのかもしれない。
しかし、イルカは、その言葉も、視たのであろうものも、正気に返ったときには覚えていない。
また、イルカは性の相手として、カカシ以外を知らない。
もちろん、カカシは今後も知らせるつもりはないので、他人に確かめるとことも出来ない。
カカシだけが知っている。
それでいい、と、カカシは思う。
「あなたに、また助けられましたよ。草の正体がわかりそうです」
腕にイルカの頭をのせ、カカシは微笑む。
「そうなんですか。俺、ぜんぜん、わからねえからなあ」
イルカは悔しがる。
「普通のときに出来ればいいのに。千里眼」
「出来なくていいですよ」
カカシはイルカの髪を梳く。
「あなたのそういうの、オレだけがね、見ればいいんです」
「最終的に、俺でなくて、カカシさんだけが視るんですね」
イルカが言った。
そう。
カカシは肯うかわりに、イルカに口付けた。
互いを視るのは、恋人同士の互いだけでいい。
視る。
それは、直接的な性行為よりもさらに煽情的な愛の行為。