夜に鳴く
16の頃から、イルカはカカシにからだを造りあげられてきた。
カカシの望むままに、性を仕込まれたのだ。
カカシによってしか、快感を得ることが出来ない。
ひょっとしたら、違うかもしれない。
女も抱いてみたら抱けるかもしれないし、他の男でも悦いのかもしれない。
だが、試そうとは思わないし、何よりも心が、もうカカシをしか求めなくなっている。
朝、起床して、イルカは小さく息を吐いた。
夢精で、下着を汚している。
自慰さえも禁じられたからだは、どうしようもなくなった時に生理的に吐きだす。
「カカシさん、まだ帰らないのかな」
寝台から出ながら、イルカは声に出して呟く。
べっとりとした皮膚の不快と、精神の不快、双方がイルカを襲う。
行き場がないので、不在であるカカシにそれは向けられる。
「帰ってこなかったりしたら承知しねえからな。速攻であとを追ってやる」
それは、愛の睦言ではない。
呪詛だ。
カカシにとっては、もっとも忌まわしいであろう呪いの言葉だ。
「こわいねえ」
のんびりした声がした。
空間が細かく揺れ、背の高い忍者が現れる。
「いちばん、効果がありますからね。今も、そうじゃないですか」
イルカは、顎を上にそらす。
「そうです。困りますから。あなたに死なれたら、とても困ります。世界が終わっても、あなたには死んでもらっては困る」
イルカの腰を抱き寄せ、カカシは長い指で、イルカの夜着と下着を剥いでしまう。
「何をするんです」
イルカは身じろぐ。
「どうぜ、脱ぐつもりだったんでしょ?」
口布を下げ、カカシは唇の両角を上げる。
「独りでイッたお仕置き、しなくちゃ」
「イッてません」
イルカは、不機嫌に返す。
「そう? じゃ、オレがお詫び、かな」
何も身に纏わないイルカに、カカシは唇を寄せる。
キスをしたまま、イルカが出てきたばかりの寝台に転がる。
16の頃から、イルカはカカシにからだを造りあげられてきた。
カカシの望むままに、性を仕込まれてきた。
カカシの指が、イルカの肌を這いまわる。
後を追うようにして、唇で全身に口付ける。
「はあ、あ」
イルカのこぼす熱い吐息をキスで吸い取り、カカシはいったん身体を離し、彼も全裸になる。
「愛しているよ、イルカ」
この声だけが。
この言葉だけが。
イルカの生存を支配する。
「愛してます。カカシさん」
イルカは、カカシの背に縋りつく。
男性器の愛撫だけでは、イルカは性的な快感を得ることが出来ない。
カカシの男で。
受け入れる性器となった場所を貫かれて初めて、イルカは「イク」のだ。
それが無い精液の放出は、排泄よりもさらに自律性のない生理現象に過ぎない。
後ろを一杯に満ちさせ、激しく穿たれる。
これが、イルカにとってのセックス。
カカシに貫かれることだけが、イルカのセックス。
「ああっ」
短く悲鳴をあげ、イルカはイッた。
カカシもイルカ本人も知らない。
白濁が、愛する男を求めて夜に鳴き、恋うてこぼした涙であることを。