それは部下を中忍試験に送って、心は案じながらも身はヒマな日々のこと。
上忍控室の扉を、紅が恐ろしい勢いで開いた。
「カカシ! 料理を教えなさい!」
「へ?」
一人、のんびりと紙コップのコーヒーを啜っていたカカシは、目を丸くして紅を見る。
「料理? てか、命令形?」
「あんた得意じゃない。こないだフリージングパックにしたカレーを貰ったわ。わざわざブランド店の紙袋に入れて」
「うん。作りすぎて。ヨーグルトを入れてマイルドにしたんだよ〜。紙袋は、あれがいちばん丈夫だったから」
「あんたらしいわ。だから、教えるのよ!」
「なんで〜? 紅姐さん、百パーセント外食の人じゃない。
それくらいの稼ぎはあるって断言してさ」
「そうよ、女が料理をするって偏見と戦っているのよ!
くの一として! 家事なんかやってて上忍になれるかっての!」
けれど。
同じ上忍仲間のアスマと言い合いをしたわけである。
ちなみに、アスマは味にうるさい。
自分でも見事に作る。
カカシのを生活に密着した炊事とするなら、アスマのは、店に出しても恥ずかしくないプロはだしの代物だ。
「アスマに出来て、私に出来ないはずがないわ!」
「あ〜、もう。どうして、そう、対抗意識が強いかな〜。ガイじゃないんだから」
ぼやきながらも、姐さんの命令に逆らえるわけもないのであった。
そして。
なぜかアスマの部屋である。
紅の台所には、一切の調理器具はなかったし、カカシのお粗末過ぎるワンルームも、教室を開くには乏しい。
というわけで、アスマ先生の登場なのである。
オレなんか巻きこまず、二人でいちゃついたらいいのに〜。
という思いは、賢明なカカシは心の中だけで呟く。
「何やってんだよ! ったく、面倒くせえな。
包丁は引くんだよ。そっと。それじゃ切れないだろ」
「紅、紅! それじゃ火が強すぎるって〜。焦げるって!」
決して不器用なわけではないのだが、慣れなくて戸惑ってばかりの紅はキレた。
「わかんないわよ! そんなの! 力の入れ具合は、方向と力をちゃんと数量で示して!」
「あ?」
アスマとカカシの声が合う。
「速度と、力と! 熱量はKclで示してよね!」
紅、実は理論くんであった。
「ええと。Y軸の方向に分速100メートル……くらいか?
で、柄を握る力は……」
「まな板との摩擦率は?」
「んなん、わかるか!」
アスマがキレる。
「あ〜、サクラがいてくれんかな〜」
黙々と屑を始末しながら、里一の切れ者の部下を切実に欲するカカシだった。
ちなみに、その日は食せるようなものが出来るはずもなく、居酒屋で三人して朝まで飲み明かしましたとさ。
カカイルでないまま終わる。