それは、どうってことのない夕べであった。
夕食を一緒に摂ったとった後、イルカはカカシの髪が気になって仕方がなくなった。
「うーん、散髪屋って嫌いなんですよね〜」
自分の前髪を引っ張って言うカカシに、イルカは宣言する。
「じゃ、俺が切っていいですか。俺、生徒の髪を切ってやって、本職の散髪屋に褒められたこともあるんです」
イルカの、爛々と光った目の迫力に、カカシは言うしかなかった。
「……お願いします」
一面に油紙(昔、小包を包んだ水をはじく茶色い紙。なぜ、いまどき、一般家庭にこのようなものがあるかは不明)を敷き、大きなビニール袋の真ん中をくりぬいて、カカシの頭からかぶせる。
「あ、肩が入りませんねえ。穴が小さかったかな……、カカシさん! 関節は外さなくてもいいですから! ビニールのほうを切ればいいんです!」
「ええと、左眼に垂らすように、こちら側の前髪は長いめでいいんですよね」
「けっこう量が多いですねえ。梳いてしまいますね」
イルカは、すっかり散髪屋のオヤジになりきっている。
そして、腕に覚えありのイルカカットが終わって、カカシが鏡のなかに見たものは。
「よく言って、ゲゲゲの鬼太郎?」
我がごとながら、ひどく冷静にカカシは語を発する。
「そ、そんなことないですよ! あ、ほら、ドライヤーを当ててみましょう!」
ムースやジェルをつけ、ブローで誤魔化すというのも、プロなみのテクニックを持つイルカであった。
その後、数日。
責任をとって、毎朝、カカシの髪をブローするイルカの姿があったとか、なかったとか、いうことである。