「サスケ、おまえ、イルカ先生が好きだね」
内容に比してのんびりした声音に、黒髪の少年がぎくりとして首を回すと、銀髪の上司は満足した猫のように右目を弓型にした。
「可哀想だねえ」
「……何が言いたい、カカシ」
「んー。サスケはさ、ナルトがイルカ先生を大好きなように好きなんじゃなくて、オレがイルカ先生を好きなように好きなのよね。だから、可哀想」
サスケは、カカシを無言で睨む。
「永遠に、叶わないから」
サスケの目の光が、さらに強くなる。
「あのひとはオレのものだから」
「永遠に?」
サスケは嘲るように問う。
「そうだよ―。未来永劫、永遠に。オレが先に死んでも、あのひとは誰にも渡さない」
カカシの安穏とした表情は変わらなかった。
だが、凍るような殺気をサスケは感じていた。
復讐することだけが、生きている意味。
愛情も友情も、何もいらない。
そう決意すればするほど、想いは育っていく。
イルカが、自分に特別な感情を持ってくれなど、しないことはよくわかっている。
生徒の一人として案じてくれていることなど、誰に指摘されるまでもなく、わかっている。
かといって、ナルトのように、無邪気に甘えられないことも。
誰にも言わない。伝えない。
いつか、胸のうちで消さねばならない。
わかっている。よく、わかっている。
それを、なぜ。
サスケは、カカシに憎しみに似た感情を抱いた。
大人気ないことだと、カカシにもわかっている。
八つ当たりだということも、わかっている。
ただ、サスケの想いがあまりに純粋で。
あまりに、鳴かぬ蛍が身を焦がすから。
鳴く蝉よりも、鳴かぬ蛍が身を焦がすから。
哀れだと感じても、同情などしてやらない。
欠片さえ、あのひとは、誰にもあげない。
「ねえ、イルカ先生」
イルカの膝に頭を落としたカカシは、指を伸ばして、その髪をもてあそぶ。
「オレのこと、可哀想だと思って、付き合ってくれてるんでしょ」
「そんなこと、ありませんよ」
イルカは、困ったように笑う。
「おれは、そこまでお人好しじゃありません」
「じゃあ、オレのこと、好き?」
「好きですよ」
「他の誰も、好きにならない?」
「あなたを好きな意味ではね」
「ずっと、ずっとだよ」
「はい」
それは、呪に等しい誓い。
誰にも渡さない。
たとえ。
たとえ、自分の命よりも大切な仲間が、身を焦がして、焦がれ死のうとも。