カカシシェフにお任せ!
 
なんとなく家に居着いて、なんとなく家事をこなしてくれる上忍との生活が日常になっているイルカであった。
上忍とはそういうものなのか、手際がいいカカシは、家事も万能なのである。
 特に料理の腕前は、忍者を辞めても料理屋で食っていけるよ、というほどである。
 しかし。
 どんなに高級食材をふんだんに使用して、極上の腕で調理されて、目にも胃にも贅沢なものであっても、だからこそ、毎日続くと拷問に近くなってくる。
 ある日。
 イルカは意を決して言った。
「あの、非常に美味しいんですけど、ほんとうに嬉しくて有難いんですけど、なんというか、その、もう少し、あっさりしたものというか、そういうものを頂けませんか? あの、俺が作ってもいいですし」
 カカシは、子供のように首を傾げる。
「いえ。作るのは手間じゃないですから、構わないですけど、具体的に言うと、どんなものがいいんですか?」
「ええと、朝はトーストとか、夜はお茶漬けとか、そういうような……」
 カカシの右眼が、きらん、と光った。
 額当てで隠されている写輪眼まで、そんな反応をしたように思えるのは、イルカの思いこみだけでもあるまい。
「これは、一本とられました。そうですよね。そういう毎日、食して飽きない、素朴な物を極めてこそ、料理人、包丁人。オレの修行が足りませんでした」
 いや、料理人でも包丁人でもなくて、あんた忍者だろ、という突っ込みをして、命を危険にさらすほどイルカも阿呆ではない。
「で、では、お願いできますか?」
 イルカの気弱な目つきに、カカシは胸をどんと叩いた。
「お任せ下さい。必ず、ご希望にそってみせましょう!」
 その、あまりの張りきりぶりに、イルカは嫌な予感がしたのだった。
 
 嫌な予感ほど当たるものである。
「カ、カカシ先生〜。これ、いったい……」
「岩の国でとれた名産の小麦粉を丹念に挽き、波の国の塩と、雲の国の水だけを使って、この一斤を焼きあげました。バターは、瑞の国の……」
 勿体無くて、食べると涙の味がする。
 この一枚分で、イルカの給料何ヶ月分になるのだろう……。
 茶漬けに至っては。
 国主に献上する田からとれた米を譲り受け、また雲の国の水で炊き、最高級ふぐの身を惜しげもなくほぐしたお茶漬けの味。
「イルカ先生には感謝しますよ。オレは、また一つ、料理に関して開眼しました」
 悦に入るカカシであったが、イルカには、もう何の味かもわからなかった。
 
 それきり、厨房のことには沈黙を決め、アカデミーの職員室の隅っこでカップラーメンを啜り、庶民の舌を満足させるイルカの姿があったことは、カカシには絶対に内緒である。
 
 
 
戻る