ショ―ト寸前
 
イルカが遅めの昼食を摂ろうと、アカデミ―の食堂に赴くと、ひときわ輝く銀髪が席についていた。
へえ、上忍のカカシさんでも、こういうとこで食うんだ。
定食の盆を受け取りながら、ぼんやり、そんなことを思っていたイルカだが、カカシが口布を降ろしていることに気付き、欲望の虜になった。
夢は火影になること。目標はカカシ先生の素顔をみることだってばよ!
と、ナルトが広言してはばからない謎の顔である。
見てえ。近くで見てえ!!
欲望に勝てなかった。
「ここ、よろしいでしょうか」
礼を失しないように気をつけながら、イルカはカカシの向かい側に立つ。
「あ。どうぞ」
カカシは、ぼおっとした声で答えた。
イルカは座し、割り箸を割ることに集中している振りをして、カカシの顔に視線を遣る。
大方の予想に違わぬ、美麗な顔つきだった。
通った鼻梁も、形のいい唇も、繊細な顎の線も、はい、美形だってばよ、と言うしかない。
はああ。天はニ物を与えずなんて政治家の公約くらい大嘘だ。
イルカは、心の内で嘆く。
天才エリート忍者として、地位にも名誉にも金銭にも恵まれ、背が高くてスタイルが良けりゃ顔もいい。声までいいもんなあ。
無いもん、無いじゃねえか。
我が身と比べると、悲しくなるので、イルカは黙って定食の米飯を口に放り込んだ。
カカシは無言で、食べていたうどんに、やたらと七味唐辛子をふっている。
汁が赤くなっている。
さすがに、ありゃ辛いんじゃねえのかな。
と、目を見張っているイルカをしり目に、更にそれに、カカシは醤油をいれ、ソースをいれ、そして、食べだした。
うっわあ。食ってる、食ってるよ。
見てるだけで、口だけではなく胃が文句を言いそうな代物を、カカシは黙々とすする。
ふいにカカシが顔をあげた。
じっと見ていたので、イルカと真正面から視線が合う。
数秒、物も言わずに見つめあってしまった。
その雰囲気に耐えられず、イルカは言を発する。
「う、美味いですか」
「はい、美味しいです」
カカシは、あっさり返す。
げ、と思いながらも、イルカは引きつった笑いを浮かべる。
「それは……良かったですね」
「良かったです」
カカシは、にっこりと笑った。
うわあ。
また心の中だけで、イルカは叫ぶ。
笑うと、ますます男前だ。さぞかし、女にモテんだろうなあ。
我が身と引き比べると、ますます悲しい。
でも、ま。
はたけカカシは、男前だが味オンチである。
そう思うと、親しみが湧くよな。
イルカは、自分の考えが気に入って、くすくす笑った。
 
 
イルカが、食堂から出ていった後、カカシは、深い息を吐いた。
そして、丼の底に残った汁の色に、ぎょっとする。
なんだよ、これ。人間の食い物じゃないよ。
……何の心構えもないところに、イルカが来るから。
緊張のあまり、無用な行為を繰り返してしまった。
イルカがにこにこ笑うから、味なんて全くしなかった。
ああ、ちゃんと話したかったな。
カカシは、また嘆息する。
せっかく食べてるところだったのだから。
さりげなく好物の話なんかして、じゃ、一緒に食いに行きましょう、なんて展開にもっていけたはずなのに。
 
ずっとずっとイルカが好きだった。
 
好機を生かせなかったことを悔やみまくるカカシは、自分がイルカに味オンチの烙印を押されていることなど知る由もないのだった。
 
 
 
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