弦、切れる

真冬の張りつめた空気に、筝の音色がよく響く。
イルカは長い黒髪を降ろし、背筋を伸ばして十三弦を達者に弾く。
杯を傾けながら、カカシは目でイルカの姿を、耳で音を楽しんでいた。
良い声で、イルカが地唄をつける。

恋い恋いて たまさかに逢う夜の愛しさよ
行き行きて 辿る夢路の手枕よ

後半の詞章を和しながらカカシは、イルカも音楽の上では大胆なことだと心のうちで思う。
恋しかった。抱きあいたい。
そんなことを、言葉で発してくれるイルカではない。
最後の音が、余韻を残して奏でられる。
カカシは酒をほして、拍手をした。
「お見事です。あなたが筝曲の名手だとは知りませんでした」
「三代目のお言いつけで」
イルカは、すっかり普段の様子に戻って、照れたように鼻の頭の傷を掻く。
「カカシさんこそ、良いお声です」
「オレは四代目のお言いつけで。なんだか、よく歌わされました」
顔を見合わせて、微笑みあう。
「雪になりましたね」
琴柱を直し、爪を調節しながら、イルカは譜をめくる。
「雪の曲を」
カカシの所望に頷き、イルカは弦を弾く。
と、鈍い音がして、弦が切れた。
「つっ」
イルカは指を押さえる。
さっとカカシは近寄り、イルカの指を口に含む。
ゆっくりと口の中でねぶり、鉄の味がする血液をなめとる。
「ふ」
イルカが熱い吐息をついた。
「オレが、弾き手になっていいですか?」
唾液をわざとのように糸を引かせながら、イルカの指を口から出して、カカシは囁く。
頬を赤くして、イルカは頷く。

たっぷりと肌を愛撫して、カカシはイルカを貫く。
「はあ、あ」
イルカは。
弾き手のカカシの意のままに。
とても良い声で鳴く楽器だ。
最上の音楽を奏でてくれる。
弦が切れたように、イルカのからだが力をなくすまで、カカシはイルカを鳴らしつづけた。

戻る