「俺、職場恋愛や任務中恋愛って信じられないんですよね」
いわしの味醂干しを齧りながら、イルカがしみじみと言った。
「同僚か上官か部下、任務中なんて依頼人か敵以外はないわけじゃないですか? そういう対象には見られませんよ」
「そうは言っても知りあう機会なんて、そうそうありませんし。どこか身近なところで、みんな見つけるんじゃないですか」
食後の茶を啜りながら、カカシが言う。
「いや、俺の仲間内は、全員、仲間以外と恋愛して結婚してるんですよ。ちゃんとどこかで知り合って」
イルカは、小さく息を吐く。
「つまり、イルカ先生は職場や任務以外で恋愛対象に出会いたいんだ、ということだと認識してかまいませんか?」
妙に冷静に、カカシが語を継ぐ。
「そういうわけでも。……。そういうことですかね。俺も、そろそろ独りの寂しさが身に沁みてきたかなって」
照れ隠しに、イルカは鼻の頭の傷を掻く。
「じゃ、ま、職場じゃなくて、今、ここでオレに出会ったことにしません?」
口布が、取り払われていた。
ご丁寧に額宛まで上げられたカカシの素顔は、初対面と言われても違和感はないほど新鮮だった。
「はじめまして。はたけカカシです」
「は、はじめまして。うみのイルカです」
思わず、頭を下げて返してしまう。
「というわけで、ま、お付き合いしてください」
カカシが、のったりと続けた。
職場恋愛ではないと、イルカは言い張っている。
出会ったのは、商店街の外れの定食屋だと。
そのほうがどうよ? と聞かされたほうは思うのだが、優しいので口には出さず、晩生で仕事一筋だったイルカの初めての恋愛を、あたたかく見守っている。