カカシ先生は余裕!
 
イタチに受けた痛手による、長く苦しい眠りから、カカシは目覚めた。
瞳が追うのは、黒髪の愛しいひと。
涙を溜めていた。
「良かったです。カカシさん」
「ん、心配かけて、ごめんね」
弱々しい声で、それでも優しく言い、震える手で、イルカの髪を撫でる。
「良かったです。ほんとうに」
震えているのは、イルカの声も同じ。
「苦しかったんですね。こんなに老けこんで!」
「…………え?」
なんとなく、聞きたかった言葉ではない気がする。
「あんなに、あんなに凛々しく、美しかったカカシさんが!」
「………………は?」
「おれ、見たんです。十七歳のときのカカシさん。この世に、こんな綺麗な存在があるのか、と、おれは暫く動けませんでした」
あの、オレ、別に十年間、眠っていたわけじゃないんですけど。
それを言にする間もなく。
「よく、言ったあ、イルカ! そうだ、我が永遠のライバルは、美しかった!」
「確かに、あん頃のカカシはなあ」
ガイが、白い歯をきらめかせ、アスマが嘆息する。
「硝子の少年、て言ってたもんね。照れ抜きで、真面目に」
紅は、恨んででもいるような、声を出す。
「人が動けないと思って、言いたい放題、言ってるでしょ」
「何を言っている、みな。カカシは、そんなものじゃないぞ」
新たに割って入るのは、五代目火影の声である。
カカシは、言ってやってください、ツナデ様、と心の内で叫ぶ。
「小さいときのカカシはなあ。天才というに相応しく、見た目も、そりゃあ、可愛かった! 四代目が抱きあげたりなんかすると、もう。泣きついてくるのが可愛くて、大蛇丸や自来也も、わざと苛めたものよ」
期せずして、全員の、ため息が重なった。
「え〜、オレの立場は〜」
カカシは、情けない声を出す。
アスマが趣味の詩吟を、うなりだした。
 
少年老い易くううう、
学成りがたしいいい。
 
アスマは興に入り、その場の者は、そろそろと退散しはじめる。
イルカは、きゅっとカカシの手を握る。
そして、そっと耳元に、口を寄せる。
「でも、でも、おれは、今のカカシさんが、いちばん好きですからね!」
「はい。オレも、今がいちばん、いいです」
若く綺麗な季節なんか、要らない。
要るのは、イルカ先生だけ。
イルカ先生がいるから、カカシ先生は余裕。
 
 
 
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