「湯」。
と書かれた暖簾の下で、二人は会った。
「おや」
「え?」
カカシとイルカは、互いを見遣る。
「こういうとこに、来るんですか?」
違う口から同じ音が発せられる。
やはり同じに苦笑し、内に入ることにした。
「おれ、とにかく風呂がすきでして。
温泉はもっと好きです。
趣味に湯治って書いたら、爺くせえって散々言われたましたけど」
イルカが衣服を脱ぎながら言う。
「オレも、広い湯船が好きなんですよね。
温泉も好きですよ〜。何度、傷を治したことか」
カカシがアンダーを脱ぎすてた顔に、思わずイルカは見惚れてしまう。
顔立ちの整った、すこぶるつきのいい男だった。
「あ、あの。お顔を出されて、いいのですか?」
「ん? ああ、いいんですよ〜。別に隠してるわけじゃないんです」
「は?」
「オレ、ひどい花粉症でしてね〜。スギ、ブタクサ、もう一年中。
子供の頃からで、忍者が鼻水たらして、くしゃみしてたんじゃ仕事にならないでしょ?
で、仕方なく防御してるだけなんで」
なるほど。
覆面型の、クールな天才忍者だと評判だったが、聞いてみなければわからないものだ。
しかし、そういう理由で隠してるなら、この素顔は勿体無さすぎる。
と、イルカは思った。
カカシは構うこともなく、湯に行く。
湯煙のなか、気持ちも筋肉もほぐれていく。
上気した顔でカカシとイルカは、あそこの温泉がどうの、ここの風呂がどうのという話をし、いつのまにやら、一緒に温泉に行こうという約束まで出来あがっていた。
そんなわけで。
ひょんなことから、湯煙仲間となったカカシとイルカである。
「二人で会うときは、服を着てる時間のほうが短いですよね」
と、イルカは冗談顔で笑うのだが。
実は。
湯から上がった濡れ髪を下のほうでゆるく結び、火照った肌が浴衣から覗いているイルカに、カカシは浴場で欲情してしまった。
別の意味で裸になる機会をカカシが狙っている、というのは、今のところ秘密である。
カカシの下心など、疑うはずもなくて、今日もカカシとイルカは温泉に日帰り旅行する。