カカシの、押しても駄目なら押し倒せという猛烈攻撃で、とうとうほだされてしまい、そういう関係になったイルカである。
いったん始まってしまうと早くて、現在は、一ツ家の下でみょうとの真似事をして暮らしている。
犬も食わないなんとやらだが、一緒に生活すると喧嘩は絶えない。
「カカシさん! なんで、あんたは何回、言ってもわからないんですかっ。出した物を片付けるくらい、子供でもできることですよ!」
「今、やろうと思ってたんです。そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないですか」
「やるやるって言って、やった試しがないじゃないですかっ。おれ、試験で疲れてるんですよ」
「だから、やりますから、休んでてください」
「こんなに散らかった部屋じゃ、休むものも休めません。……ああ、やっぱり、一緒に暮らすのなんて、無理なのかなあ……」
わざとのように呟かれた言葉に、銀髪の上忍の、赤い瞳が光った。
「そういうことを言いますか? それって、オレが邪魔だってことですか?」
「別に、そんなことは言ってませんよ」
「言ってます。そうですよね。あなたは、オレより生徒のほうが大事だし。同僚の、なんとかってくの一のほうが、いいんだ」
「待ってください。生徒はともかく、なんで同僚が出てくるんです?」
「だーって、飲みに行ったでしょ?」
「職場の飲み会くらい、カカシさんだって、あるでしょ」
「そうじゃなーいです。二人で行ったでしょ?」
「え? ああ、指導要領のことで遅くなって、場所移動したことはありますが」
「それだけじゃないですー。なんだか、身の上相談されてたじゃない」
「……なんで、あんたが知ってるんです?」
「あれって、自分が不幸ぶって、イルカ先生の気をひこうっていう魂胆ですよ。しかも、イルカ先生、勘定を持っちゃうし」
「だから、なんで、あんたが知ってるんですかっ」
「ふ、ふーんだ。それで、帰ってきたら、そのこと、何にも言ってくれないし。疚しいからでしょ? あの女が好き?」
「好きも嫌いもありません! おれのほうが年も勤続年数も上ですし、勘定を持っただけです! 言わなかったのは、言う必要もないくらいで、忘れてたからです」
「あの女、たちが悪いですよ。オレね、イルカ先生が、あんな嫌な女に騙されて金を出してるっていうのが、許せないんです」
「人聞きの悪い。彼女は、そんなひとじゃないですし、おれも彼女も、そんな感情は欠片も持ってません!」
「ふーん? イルカ先生ってひとを見る目がなーい。趣味がわるーい」
「……。ああ! 見る目がないですよ! 趣味が悪いですよ! こんなひとと暮らしてるんですから!」
「じゃあ、出ていけばいいでしょ!」
「出ていきます!」
売り言葉に買い言葉。
しまった、とすぐに気が付いたのはカカシのほうだった。
だが、謝るすきも与えず、イルカは恐ろしい勢いで辺りを片付け始めた。
みるみるきれいになっていく部屋で、箪笥を開けて貴重品を確かめる。
「あの、イルカ先生。イルカ先生?」
その背に纏わりついて、カカシは、おろおろしている。
イルカは、大判の風呂敷を畳に広げ、その横にきちんと正座した。
「もともと、ここはカカシさんの部屋ですし、大事なものだけを持っていきます」
「……はい」
カカシも、風呂敷の前になんとなく正座する。
「じゃ、カカシさん、ここに座ってください」
イルカは、風呂敷の真ん中を指差した。
あとの言葉は、床の中で。