原点

「カカシくん、チャクラは使わなくていいからね」
歩幅を合わせようと懸命になっている銀髪のこどもに、波風ミナトは優しく言った。
「おいで」
ミナトは両手を広げ、カカシを抱きあげた。
カカシは、つかの間、抵抗する素振りを見せたが、すぐに、ミナトの胸で大人しくなった。
ミナトは、そのまま歩む。
すれ違う人、すれ違う人が振り返る。
銀髪のこどもを抱いた金髪碧眼の美青年という、絵画のような光景に対する嘆息がほとんどであったが、混じって囁かれる声もあった。

あの、白い牙の。
あの子。
はたけカカシ。

どんな小さな声も、カカシの耳に届くらしい。
カカシは、ミナトのシャツをぎゅっと掴む。
ミナトは優しく、カカシの背を叩いた。
跳ぶような足取りをゆるめることなく、歩を進める。
「ここだよ」
住宅地の一画で降ろされ、カカシは驚いたように、ミナトを見上げた。
「もう、忘れた?」
からかうようにミナトに問われ、カカシはもげそうなほどに、首を横に振る。
カカシに、忘れるということ、記憶の欠如が起こることはなかったが、それでなくても、あまりにも強烈な想いのために、記憶を封印させていた場所だった。
「ミナトさん、カカシくん、入ってください」
黒髪の男が屋内から庭を抜けて出てきて、急いたように言う。
「こんにちは。本日は、お招きにあずかりまして」
光が煌くような笑顔を、ミナトは見せる。
カカシは、黙って礼をした。
「かかし!」
幼い声が叫んだ。
黒髪を、頭の高い位置で結ったこどもが、こけつまろびつ、走ってくる。
「かかし、かかし、かかし!」
黒髪のこどもはカカシに縋りつき、その名ばかりを繰り返す。
「イルカ」
ぽつり、とカカシは音を、口の外に出した。
ミナトは微笑む。
サクモが自死し、自分が任務から戻ってきてからも、カカシの口数は極端に減っていた。
「いるかはね、ずっとずっと、かかしをまってたの。あそぼう。いっぱい、あそぼうね」
早く、早く、というように、カカシより二回りほども小さい幼児が、カカシの手を引く。
「うん。遊ぼうね」
カカシは、にっこりと笑って、イルカの手を握った。
ミナトと、黒髪の男、うみの。
遅れて出てきた、うみのの妻であるイルカの母も。
何かに打たれたように、じっとその様を見つめていた。

いっしょにいると、さびしくない。
寂しくなんか、ないんだ。

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