スポットライト
 
 空気がしんと透きとおるような晩秋。
 よく晴れた日曜の午後とあって、河原はなかなかの人出だった。
 愛を囁くカップル。
 家族づれ。
 はしゃぐ子供たち。
 キャッチボールを楽しむ、若い父親と男の子の姿もある。
 
 日野秀歌は、しばらくそれを見つめていた。
 父親の動きを追うようにして。
 ふと、秀歌と父親の視線が合った。
 それを機に、土手を滑りおりる。
「たかちゃん! 亮くん!」
「しゅうか。ほら」
 父親がボールを投げてきたのを、秀歌は両手で受けとめた。
 
 
 日が暮れて、三々五々と人が散っていく。
 小柄で細身に茶髪の若い父親、瀬尾孝之は、疲れて眠ってしまった亮を背負っている。
 秀歌は、瀬尾のかわりに自転車を押す。
 困ったように笑って、瀬尾は秀歌を見る。
「わりいな、日野」
「いいって」
「用事、あったんじゃねえの?」
「これが用事。
 久し振りに日曜の休みが取れたからさ、
 たかちゃんと、亮くんと遊ぼうと思って、来たの」
 秀歌の言に、瀬尾は声を立てて笑う。
「せっかくの休みなら、デートのひとつもしろよ。いい年の女がさ」
「ほっといて。同い年じゃん」
「俺が言うのもなんだけど。
 一度くらい結婚しといたって、バチは当たんねえぞ」
「じゃ、たかちゃん、すれば」
「だから、一度すれば充分ってこった。
 だいたい、稼ぎは悪いし、コブつきだし、俺なんか、相手にされるわけないだろ」
 瀬尾は、あっけらかんとしている。
 秀歌は俯いた。
 やがて、意を決したように顔を上げて言う。
「も一回、芝居やる気、ない?」
 瀬尾は、一瞬、磨ぎ澄まされた視線を秀歌に当てた。
 だが、それは、ほんとうに一瞬のことで、すぐに、小さな顔が笑みでくしゃくしゃに崩れる。
「それこそ、失敗は一度で充分だっての」
 それ以上、語を継ぐことが秀歌にはできなかった。
 
 瀬尾と秀歌は、大学の、学生演劇の仲間だった。
 秀歌は脚本、演出を担当しており、瀬尾は看板役者だった。
 整った顔立ちと、小柄ながら均整のとれたスタイルもさることながら、
 瀬尾は舞台に立つと普通人にはないオーラを発し、カリスマ的な人気を博していた。
 そのカリスマ性にいちばん酔っていたのは自分ではなかったか、と秀歌は思う。
 彼女の書く脚本は、常に瀬尾を主役として念頭に置いたものであったし、
同い年の同級生でありながら近しく話すようなことがあると、妙にどきどきしたものだ。
 瀬尾の力が大きかったのだろう。
 彼らの劇団は、演劇界からも注目を受け、それぞれがプロとしてやっていけるところまで辿りつこうとしていた。
 その頃、瀬尾と付き合っていた女性が子供を早産し、それがもとで亡くなった。
 大学にも行かず、金銭の面はもちろん、生活のすべてを女性に任せていた瀬尾は、彼女が妊娠していたことさえ知らなかったそうだ。
 そして、ここに至っても、これで恋人を亡くした演技がわかる、と、まず芝居のことを考えた自分に呆然としたのだと言う。
 瀬尾は、大学も劇団も退めた。
 小さな印刷会社の営業の職を得て、子供を籍に入れ、独りで育ててきた。
 亮と名付けられた彼女の忘れ形見は、心も身体もすくすくと育っている。
 
 
「他の同じ年頃の子より、だいぶん、でっかいよねー」
 アパートに帰り、寝かしつけた亮の顔を見ながら秀歌が言う。
「そこんとこは俺に似てねえんだよな」
 コップ酒をあおりながら、瀬尾はくつくつ笑う。
 ツマミや食事は、秀歌が用意したものだった。
 瀬尾の好みも熟知している。
 秀歌は大学を卒業して、弱小ではあるものの、一応ちゃんとしたテレビの制作会社に入った。
 ほとんど雑用ばかりの日々を経て、最近は制作に関わらせてもらえるようになった。
 名前が出ないことを承知で書いてきた脚本も認められてきて、今度は、有名ライターと共同という形ながら(実際は秀歌が全部、書くのだ)、 名前がクレジットされるらしい。
「頑張ってんじゃん」
「かな」
 秀歌は、こんなふうに瀬尾と平凡な友人付き合いをしている自分が不思議だった。
 秀歌にとって、瀬尾はずっと眩しく仰ぎ見るものだったのだから。
「そろそろ帰る」
「ん、悪かったな、メシまで作らせて」
「だから、私が好きでやってんだって。悪かったなんて言わないで」
 瀬尾は、ふわりと大人の笑みを浮かべる。
「じゃ、ありがとって礼だけ言っとく。いいか? 送んなくて」
「だいじょぶ、だいじょぶ。知った道だし。じゃ、また」
 亮の寝顔に小さく手を振り、秀歌はアパートを出た。
 変に火照った頬を押さえ、駅まで、秀歌は走った。
 
 
 脚本の書き直しで、秀歌はテレビ局に呼ばれた。
 主演アイドルの都合に合わせて、ホンを変えるのだそうだ。
「たまんねえよなあ。上は一言、変えろって言やあ済むけどさあ、
いろんな調整して、放送に間に合わせんのは俺たちなんだから」
「これで、このクール五回目ですよ。ま、私なんて、そういうののためにいる、
100円使い捨てライターですけどね」
 現場のスタッフと秀歌は、さんざん愚痴を言いあった。
「秀歌ちゃんなんて、美人なんだからさ、自分が主演しちゃえば」
「そうそう。学生演劇やってたんだろ」
 スタッフは、笑いながら秀歌をからかう。
 確かに、秀歌は背もあり、そこそこのスタイルをしているし、大きな瞳が深い距離感を持つ、際立って綺麗な顔をしていたので、表に出るほうが合っているように見えた。
 けれど、向いていないと本人が固く信じている。
「私なんて全然、駄目ですよ。裏方専門。
 も、演技が大根以前。手と足、いっしょに出ちゃうの。
 学生のときに急病になったのがいて、おまえが書いたホンなんだから、
 おまえが演れって舞台に立ったのはいいんだけど、
 ライト、浴びたとたん頭、真っ白。
 そんときの主役がほんもんに上手い人だったから、
 なんとかフォローしてくれたけど、もう、こりごりですね」
 話しながら、秀歌は思う。
 そう、自分はライトを浴びるような人種ではない。
 瀬尾こそが、ライトを浴びるにふさわしい、と。
 
 
 仕事を終えて、局を出ようとしたところで、秀歌は、顔見知りのプロデューサーに呼びとめられた。
「秀歌くん、きみが前に出してたホンが通って、二時間枠の単発でいこうかって話になって」
 秀歌は、目をぱちくりとさせる。
 そのホンとは、秀歌がこの業界に入って、まだ希望に燃えに燃えていた頃、学生時代の自信作を持ち込んだものであった。
 もう、三年も前の話だ。
 しかも、確定というわけではなく、大型ドラマの補欠としての話であったので、その場は適当に聞き流しておいた。
 しかし、大型ドラマの話が潰れたらしく、秀歌の書いた脚本が、ドラマになることが具体化して動きだした。
 新鋭の作品として、主役もオーディションで選ぶことになった。
 実際のところはオファーしていた俳優に断られた末の苦肉の策であったのだが。
 
 秀歌はオーディションの話を持って、瀬尾を訪れた。
 主役は、瀬尾以外にはありえなかった。
 
 瀬尾は秀歌の話を聞きながら、白い煙を一筋、吐いた。
 細めに開けた窓から、外に煙が流れていく。
「ふうん。あの芝居が、メディアにのるのか」
 瀬尾は、とりたてて感情のこもらない声で言う。
「そのままってわけにはいかなくて、テレビ用にいろいろ変えるけどね。
 でもさ、あの主人公は、たかちゃんしか演れない。
 たかちゃんがいて、あの芝居は成り立つんだよ。
 だから、頼むよ、演ってくれないかな」
 畳に正座をし、秀歌はまっすぐに瀬尾を見つめた。
 瀬尾は苦笑する。
「演ってくれって、おまえが決められるもんじゃないだろ?
 俺は単なる素人だぜ?」
「だから、オーディションを受けてほしいんだ。
 たかちゃんを見れば、たかちゃんしかないってことが、みんなにわかる」
 瀬尾は、煙草を灰皿に押しつぶし、頑是ない子供を見るように、秀歌を見る。
「日野は、なまじっか、そのまま業界に入っちまったから、夢を見続けてるんだよな。
 あれは、学生時代だけに通用するものだったんだよ。
 俺らも観客も、誰も彼もが若くて、金儲けも関係なくて、だから、出来ていただけなんだ」
「そんなことない。たかちゃんの才能は本物だよ」
 秀歌は、揺るぎのない瞳を瀬尾に当てる。
 瀬尾は嘆息した。
「俺は、昔、芝居をかじったってだけの、ただのサラリーマン、
 五歳の子供の父親だよ。
 日野、おまえは記憶のなかで、俺を美化してるだけなんだ」
「違う、そんなんじゃない」
 もどかしくて、秀歌は涙が出そうになった。
 言葉を商売道具にしているはずの自分が、瀬尾を納得させるうまい言葉を見出せない。
 悔しかった。
 どうしたら、瀬尾に、瀬尾こそがスポットライトを浴びるべき人間だとわからせられるのだろう。
 
 あの役は瀬尾のものだ。
 瀬尾だけのものなのだ。
 
 そればかりを繰り返し、とうとう瀬尾は根負けした。
「わかった、オーディションだけ、行ってやるよ。
 昔からの友達の、たっての望みだからな。
 行って、一発で落ちてくりゃあ、おまえもわかるだろ」
「ありがと。でも、絶対、たかちゃんに決まるって」
 断言する秀歌に、瀬尾はもう一度、ため息をついた。
 
 
 オーディションといっても内々のものだから、テレビ局内の狭いスタジオで行なわれる。
 その日は土曜日だったので、仕事に支障はなかった。
 だが、亮を保育園に迎えに行く時間までに戻りたい、と瀬尾は苛々している。
 秀歌のたっての願いで選考の一人に入れたものの、スタッフは、瀬尾を胡散くさそうに見ている。
 まあ、顔立ちはいいようだが、背が小さくて細くて、カメラの前で映えるというふうでもない。
 どこといって特徴もないようだ。
「やっぱ、来んじゃなかったよ。俺、思いきり場違いじゃん」
 瀬尾は秀歌に、ぶうたれる。
 それを、秀歌は宥める。
 台詞を読んで、カメラの前で歩く。
 それだけの簡単なテストが続く。
 
 瀬尾の番が来た。
 
 台本を置いて立ちあがった瀬尾の表情が、微妙に違っていた。
 小さな身体が、急に大きく見えた。
 猫背で、だるそうに歩いてきた瀬尾は、さっと手を振りあげて、合図をする。
 魔法にかかったように、照明係は、ライトを消していた。
 指差された者が、何の打ち合わせもしていないのに、次々と照明を落としていく。
 また瀬尾の合図があり、ピンスポットだけが瀬尾に当てられた。
 そのライトに照らしだされた男は、さっきまでの小柄なサラリーマンではなかった。
 
 それだけで人の心臓をも止めてしまえそうな、冷たく虚無的で、そのくせ強い光を放つ眼。
 傲慢な笑みを浮かべる口許。
 秀歌は、自分の脚本に書いた人物が現実の人間となって飛びだすあの感動を味わう。
 そう、自分が描きたかったのは、この男。
 効果を与えるために、長すぎも短すぎもしない、絶妙な間。
 掠れた、低い嗄れ声で、呟かれる台詞。
 
「もしも、世界に俺の居場所がないというのなら、俺は俺の世界を作る」 
 
 それは簡単なテストだった、
 はずだった。
 実は、プロダクションが押している俳優の起用が内定してもいたのだ。 
 だが、瀬尾が一言、台詞を言っただけで、世界は作られてしまった。
 仮初めにも、物を作ろうという人間たちなのだ。
 頭のなかに、強烈に、鮮やかに、世界が作られてしまった。
 
 人々が我を失っているあいだに、瀬尾は、スタジオを出ていった。
 予測のあった分、いち早く現実に戻った秀歌が瀬尾のあとを追う。
「……ちっくしょう」
 瀬尾は、壁に拳を打ちこんでいた。
 ぎりっと歯ぎしりする音までもが、聞こえてきそうだった。
「たかちゃん、たかちゃんっ。凄かった、完璧だったよ。スタッフも仰天してた。
 やっぱ、あの役はたかちゃんしかない。
 学生のときと変わんなくて、いや、もっと凄味を増してた。
 たかちゃんは、やっぱり凄い役者だよ」
 興奮して、矢継ぎ早に言を発する秀歌を、瀬尾は睨みつける。
「うるせえよ」
「たかちゃん?」
「もう、用事は済んだんだろ。俺は帰る」
「待って、たかちゃん、まだ」
「うっせえつってんだろ! これ以上、俺に構うな。俺を、あの場所へ引き摺り戻すなっ」
 腕に手を掛けてきた秀歌を、瀬尾は振り払う。
「もう、俺に構うな。
 わけわかんねえ昔の夢に俺を引っ張りだすのは、やめてくれ。
 もう二度と、俺の前に顔を出すな」
 秀歌は、凍りつく。
「それ、もう友達でもないってこと?」
「おまえは、この業界で頑張ればいい。
 俺は、普通のサラリーマンだ。
 学生時代のアマチュア劇団なんか忘れちまえ」
 勝手に、涙が秀歌の目から溢れてきた。
「私……。そりゃ、役者としてのたかちゃんに魅かれてたけど、それだけじゃ……。ずっとずっと、たかちゃんのこと……」
「うっせえってんだよっ」
 瀬尾は、再び壁に拳をいれ、憤然として廊下を歩き去った。
 秀歌の時間は、止まったままだった。
 
 
 八つ当たりだと、瀬尾にもわかっていた。
 ライトを浴びた瞬間の、全身の血が逆流するような高揚感。
 恍惚感。
 目は、行間を正確に読み取り、現実にいないはずの人物を造りだす。
 そして、自分が消えて、その別人が浮かびあがる。
 あの感覚。
 忘れていた。忘れたかった。
 他の人間を不幸にしてまで、追い続けるものではない。
 亮のためだけに生きようと思っていた。
 なのに、自分の身体は、いとも簡単に、あの感覚を思い出してしまった。
 秀歌の気持ちも、知らなかったわけではない。
 彼女が、自分を見つめるときに、どんなに幸福そうな表情をするか、気づいてなかったわけではないのだ。
 けれど、気づかない振りをしてきた。
 彼女の気持ちを、利用さえしてきた。
「は、結局、俺は変わってなかったんだな」
 忌ま忌ましいほどに澄んだ秋空を見上げ、瀬尾は独言する。
 そう、俺は、どう転んだって、人間として最低だ。
 どっちみち最低なら……。
 
 
 保育園から連れて帰ってきた亮を、自転車に乗せ、瀬尾は川べりを行く。
「なあ、亮」
 顔を見ないまま、幼い息子に話しかける。
「もしも、もしもな。
 パパが、テレビとか映画とかに出る人になったら、亮、どうする?」
「パパが? テレビに出るの? ええと、ハイユウになるの?」
 亮は、目をくりくりさせて問いかえす。
「そう、俳優になったら」
 にっこりと、亮は笑った。
「一番のファンになる! パパ、サインの練習しなくちゃ」
「……そっか、一番のファンか」
 思いがけない我が子の言葉に、瀬尾はしみじみと呟く。
 しばらく何かを考えていた瀬尾は、亮の顔を覗き込むと、破顔した。
「ごめんな。一番と二番は決まってるんだ。だから、亮、三番な」
「えええ。ぼく、さんばんー?」
「でも、いちばんの三番だから」
 不服そうな亮を、瀬尾は、訳のわからない言い方で宥める。
「一番と二番、誰なの?」
「ん、二番は亮のママ。一番は……」
 言葉を切り、瀬尾は遠い目を空に向けた。
 
 
 とうに夜半を過ぎても、秀歌への電話は通じなかった。
 留守電にもなっていない。
「ったく。あいつは、いつだって肝心なときに、こうなんだよ」
 瀬尾は呟き、ジャケットを羽織った。
 火の元と戸締まりを確かめ、亮の寝顔を拝む。
「頼むぞ、このまま寝ててくれよ。起きてくれるなよ」
 せかせかと、瀬尾は部屋を出た。
 雨が降っていた。
 秋の終わりというより、冬が近いことを感じさせる冷たい雨だ。
 瀬尾は、部屋に取ってかえして傘を持った。
 傘を差し、アパートの階段を降りきったところで、頭の先から、足の先まで濡れ鼠になっている人物に気づいた。
「日野っ」
 瀬尾は、慌てて彼女に傘を差しかける。
「オーディション、白紙に戻って。
 あ、つまり、内定してたの、反故にして選び直すってことなんだけど。
 だから、たかちゃんにも改めてテストに来てほしいって。
 今んとこ最有力候補だって、伝えてほしいって」
 秀歌は瀬尾を見ずに、一気に言う。
「おまえ、それ言うために、ずっと立ってたのかよ?
 この雨んなか、この寒さのなか」
 瀬尾は、呆れ声を出す。
「……たかちゃん、もう顔、出すなって言ったから。
 嫌われたってわかってるけど、でも」
「この、大馬鹿野郎っ」
 傘を飛ばして、瀬尾は秀歌を抱きしめた。
「ほんと、馬鹿。こんな冷たくなっちまって。
 風邪、引いたらどうすんだよ、馬鹿」
 激怒の表情で、瀬尾は秀歌の腕を引き、有無を言わさず、部屋に連れていった。
 風呂を使わせ、人心地着いたところで、怒った顔のまま、煙草を吸いながら言う。
「おまえな、俺の性格、知ってっだろ?
 特に、役に入ってる前後は、まともに相手すんじゃねえよ。
 平常じゃねえんだから」
 秀歌は目をしばたたかせる。
「え? じゃあ……」
「おまえの、あの妙てけれんな世界を、人にわかるように見せてやれるのは、まあ、俺しかいないわな。
 知ってるよな?
 俺が芝居に入っちまうと、どうなるか。
 生活なんかできなくなる。それ、責任とれよ」
「それって」
「ああ、うざってえな。もう一回、芝居やるって言ってんだよ」
「……たかちゃん」
 いつのまにか正座して目に涙を浮かべていた秀歌の頭を、瀬尾は抱き寄せる。
「家事とか、亮の面倒みんの、協力しろよな」
「うん」
「俺が本気でやってみ?
 すぐ、大ヒットだ。
 遊びにも行けなくなる。
 それも、おまえのせいだから、その責任もとれよ」
「うん……ん?」
 訝しそうな顔をする秀歌に、瀬尾は悪魔の笑みを浮かべた。
「なにしろ、俺の一番のファンなんだからな、日野秀歌は」
 秀歌が問い返す前に、瀬尾は、その唇を奪った。
 
 
 冷たい雨が窓枠を叩いていた。
 だが、その音はもう、秀歌にも瀬尾にも聞こえない。
 
 
 
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