まどろみ

夏の午後だったと記憶している。
休みだった父のサクモを、波風ミナトが訪ねてきた。
カカシは隣の部屋に払われて、おとなしく本を読んでいた。
内容まではわからないが低く聞こえてくる声と、父と師のチャクラを探りながら。
不意に、声が途切れた。
父のチャクラの流れが、微妙に変化している。
カカシは本を置き、慌てて、隣の部屋に行った。
戸は、するり、と開いた。
庭に開け放した網戸から、良い風が入ってきて、風鈴を揺らしていた。
ちりん、ちりん。
音が涼しげだった。
その音と合わせるようなタイミングで、ミナトはサクモの背を叩いている。
ときおり、長い白銀の髪を梳く。
気持ち良さそうに、サクモはミナトの肩に頭を預けて眠っている。
カカシに気付いたミナトは、彼らしい穏やかな笑みを見せ、唇の前に指を一本、立てた。
カカシは黙って、隣の部屋に戻った。
任務、任務の日々で、思わずうたたねをしてしまうくらい、サクモが疲れていたのは確かだ。
なんということもない光景だ。
だが、カカシは、いつまでも、ミナトの手の動きと、眠った父の表情と、風鈴の音を覚えていた。
いつまでも。

夏の午後だった。
先刻まで、カカシに肩を抱かれながらも、忍術のプリントを睨んでいたイルカは、いつのまにかカカシの肩を枕にして、眠ってしまった。
ちりん、ちりん。
風鈴が鳴っている。
カカシは、風鈴と同じリズムで、イルカの背を叩く。
ミナトを真似るように。
ミナトの幸福感を、追うように。

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