カカイル前提ミナサク


『黄金の稲穂。』


第二話。








男の名前は『波風ソヨグ』と言うらしい。

南の離島で生まれ育った男のようだ。戦争は世界各地に肥大し、南の奥底の位置にある離島も戦場となったらしい。

忍びの戦力によって、里を焼き尽くされ、命からがら逃げ出して来たと言う。





「…生き延びる為、世界各地を渡り歩いていている時、戦場で一人でいたミナトに出会ったらしいのう。それが二年前だ。」

「………」

自来也の話を聞き、三代目は難しい表情を浮かべている。

「なるほど…血の繋がりはないから、あの親子、全然似てないのね。」

大蛇丸が淡々とした口調で語る。波風ソヨグは茶色の髪の中肉中背の30代前半の男だ。

その波風ソヨグが連れて歩いていた波風ミナトは、汚れた身体を洗い流すと、目映いばかりの金色の髪、象牙のように透けた肌。波風ソヨグと血の繋がりがないのは一目瞭然だった。

「しっかし、可愛いモンじゃないか!自来也がおしめも取れないガキだって言うから、あたしが風呂に入れてあげたら、8歳のガキじゃないか!しかもあたしが抱っこすると恥ずかしがっちゃってね〜。」

ご満悦の表情で手を振って説明する綱手を見て、自来也は綱手の大きな胸をジロジロを見つめながら、返事をした。

「……お前の大きな胸を押しつけたら、どんなガキも恥ずかしがるのう。ワシの押しつけられたいのう。」

「……また、骨折したいかい?」

それを聞き、首を左右に振って、自来也は咳払いをして話を続けた。

「ミナトは、戦場で一人で生きていたそうだ。死人の荷物から食べ物を探している時に、ソヨグに見つかったんじゃが…その時、ソヨグは息の残っていた忍びに襲いかかられたらしい。それをミナトが小さなクナイ一本で始末したんだと。」

その話を聞き、無表情の大蛇丸の眉が微かに動いた。

「………その子、忍びの教えを受けてないんでしょう?」

「…………ああ、二年間…6歳当時は言葉も分かるかも曖昧だったようだ。二年経った今も読み書きはまず出来ん。」

「……言葉も分からず、忍びの教えも知らぬのに、忍び一人を殺せる力を持つ子供か…。」

綱手が眉間に皺を寄せながら声を零す。

「…今日の模擬試合、中忍二人を相手の攻撃をいとも簡単に避けておったな…しかも、チャクラを練って印まで結び、術を使った…戦場で見たのを覚えて、真似したと言っていたが……あのままであったなら、中忍二人を殺していたかもしれん。」

難しい表情のままで、三代目が声を出した。

「……血継限界でもないのに末恐ろしいガキねぇ…」

「……波風ソヨグの言う通り、忍びとしての才能はピカイチじゃ。もしかしたら、十年に一人の逸材かもしれんのう。で?ジジィ、あの親子、どうするんじゃ?」

自分の肩に手を置いて、首をコキコキと動かしながら、自来也が言った。

「………ミナトをこのまま、放置するのは危険じゃ、然るべき、知識・教養を与えてやらねば……」

「そうした方が良いわね。そうすれば、あの子、木の葉の大きな戦力になるでしょう。他国に渡すには惜しいわ。」

大蛇丸が三代目の言葉に賛同した。それを綱手は無言で見つめている。三代目は立ち上がって、目の前の三忍と視線を合わせて、こう告げた。


「波風親子を木の葉の民とし、ミナトをアカデミーで教育させる。」









++








「あのね、お腹空いてる時に、おとうさんにあったの。」

「そうなのか。」

ミナトがボソボソを話す言葉をサクモは頷きながら聞いていた。

模擬試験の後、波風親子のコトを火影と三忍で相談するコトになり、その間、ミナトを面倒を見るようにと三代目から命を受けたサクモは、木の葉の里をミナトと手を繋いで歩いていた。

「それで、おとうさんが食べ物くれたの。」

「うん。」

「『オレを守るなら、食べ物をやる。』って言ってくれたの。だから、怖いカオした知らない人達が来たら、お父さんの為にやっつけてたの。」

「…………そうだったのか……」

父親と名乗る波風ソヨグは木の葉に到着した日から、宿から出ようとはしなかった。「ミナトのコトはアンタ等に任せる。」と言い、一日中、宿で酒を飲み続けているようだ。

「おとうさん、食べ物くれる良い人なの。ボクに名前もくれたの。」

「………………」

サクモはミナトの話に言葉を失った。この子はずっと、戦場で生きてきた。波風ソヨグと出会うまで、言葉も分からず一人で。



世界は戦争が絶えない。

世界にはミナトのような戦災孤児がまだまだ存在するのかと思うと、その戦争の一部を担う忍びの自分の力が虚しくなる。


「!コレはなぁに?」

ミナトを連れ里内を歩き続けていると、サクモはいつの間にか、自分の育てている田畑に来てしまった。目の前で光り輝く黄金の稲穂を見て、ミナトは驚きの声を上げる。

「稲穂を見るのは初めてかい?」

「いな…ほ?うん、初めて見た。」

戦場で生まれ育ったミナトは、こうして育てられている稲作を見るのは初めてだった。

「これは稲穂…食べ物になるんだよ。」

「食べ物………ふーん。風に揺れてキレイだね…」

「…そうだな。ミナト、お前の髪と同じ金色だ。」

「オレの髪の色かぁ…えへへ。」

ニッコリをミナトが笑った。笑顔を見せるミナトをサクモは初めて見た。

「良いか?この稲達は明日、苅られると分かっていても、その成長を止めたりはしない。最後の最後まで生きるコトを諦めないんだ。凄いだろう?」

サクモは腰を下げ、ミナトを目線を同じにして言った。ミナトはそれを聞き、稲穂をジッと見つめる。

「………そうだね…凄いね。」

マジマジと黄金の稲穂を見つめるミナトをサクモは何とも言えない気持ちで見つめた。


年齢は8歳と言う割には、外見は4歳程にしか見えない波風ミナトは模擬試験で恐ろしい実力を見せた。

確かに、波風ソヨグの言う通り、忍びとしての才能がある。このまま成長すれば、三忍を凌ぐ忍びにもなりえるだろう。


だか、それは三代目がこの親子を木の葉の民と認めればの話だ。アカデミーで然るべき教育を受け、善悪を判断し、忍びのあり方を学ばなければ、この子に未来はないだろう。

サクモは三代目の賢明な判断を心の奥底から願った。


「………この里に住めると良いな。」

サクモは握った手に力を込める。

「うん……お兄ちゃんと、同じ里に住めると良いなぁ……」

手を握られたまま、俯いているミナトが小さな声で呟いた。

「お兄ちゃん?」

誰のことが分からずにサクモは首を傾げると、俯いていたミナトがカオを上げ、サクモをジッと見つめた。

「サクモ…お兄ちゃんって言うんでしょ?」

「……あ、オレのコトを言ってるのか?」

自分のコトだと思っていなかったので、サクモは驚いた。すると、微かに頬を赤くしたミナトがコクンと一度頷いた。

「……手を繋いで歩いてくれてたの…サクモお兄ちゃんが初めてだもん。お兄ちゃんは優しい人だね。」

ミナトが嬉しそうに言った。



その日、三代目の許可が下り、波風親子は無事に木の葉の住民となった。水戸門ホムラやうたたねコハル、ダンゾウと言う上層部の人間は難色を示していたが、三代目の「この子は未来の火の意志を継ぐモノじゃ。」と言う、その言葉に上層部は渋々従った。








++







「やった!下忍のテスト合格だ!!」

木の葉の額宛をして、波風ミナトが嬉しそうに笑う。木の葉の住民と認められ、二年の月日が流れた。ミナトは無事にアカデミーを卒業して下忍となっていた。

「よし。今日から、お前はワシの弟子じゃ。」

額宛をして、嬉しそうにしているミナトに自来也が言った。

「え〜、自来也さんがボクの先生なの〜?サクモさんは〜??」

ブーブーと文句を言うと、頭の上に自来也の鉄拳制裁が落ちてくる。

「痛っ!」

「サクモは上忍師ではない!お前の面倒はこのワシが見る!三代目との約束じゃ!」

「……ちぇっ」

頭を押さえてミナトは頬を膨らませが、そのた後、大きく深呼吸をして気合いを入れた。

「まぁ、仕方ないか。ボク、下忍になったんだから、これから、どんどん任務をこなして稼がないと!」

ミナトの言葉を聞き、自来也の右眉が微かに上がる。

「ああ?妙にやる気じゃのう。」

「そりゃ……一日でも早く、この里に恩返ししないと…ボクと父さんの生活費、里に出してもらってるし……」

言いにくそうにミナトが呟く。それを聞いた自来也も言葉を選びならが、声を出した。

「……まぁ…そうじゃったのう…お前の親父さん…ソヨグは全然、働かないのかのう?相変わらず、酒浸りでオンナと遊んでるのか?」

「うん………父さんの酒代もボク、稼がないとねぇ…」

ミナトが困ったように笑う。



波風ミナトは二年前、三代目の許可が下り、木の葉の住人となった。それ以後、アカデミーで教育を受けた。読み書きを始め、一般常識や忍びとしの教育を受け、先日、念願の下忍となったのだ。

そして二年前、初めて会った時、8歳と言うには幼すぎたその身体は、きちんとした生活を受けられたコトにより、年相応の肉体へと成長出来た。


が、その間、波風ソヨグは働こうとはせず、毎日酒ばかり飲んで過ごしていた。


「オレは、ミナトっつう凄い忍びを木の葉にもたらしたんだ!オレの生活の面倒見るのは当たり前だ!」

と、大手を振って叫んでいた。一度、受け入れると言った手前、波風ソヨグだけを里外に追放するワケにもいかず、三代目も困惑してた。




「波風ソヨグは、お前が木の葉の忍びになるコトで、安住の地を手に入れたのう…わずか10歳でお前は義理の父親を養うのか…お前も不憫じゃのう……」

自来也がミナトの頭を優しく撫でる。

「……不憫じゃないですよ。ボクは父さんには感謝している。あの人に拾ってもらわなければ、木の葉の人間にもなれなかった……だから、父さんを養うのくらいワケないです。でも、三代目や里のみんなには申し訳ないですから、オレがしっかりと稼いで恩返ししないと!オレは大切な人を…大切な人を守れるくらい強くなるんです!」

誰かを、何かを想い、ミナトは誓うように声に出した。

「お?その大切な人ってのは、渦の国のくの一のクシナってガキか?お前も色気づいたのう!」

ミナトの言葉を聞き、自来也が茶化す。

「違います!!誰があんな、おてんば娘を…!と、とにかく、これから、ビシバシ鍛えて下さいよ!自来也先生!!」

さっきの真面目そうな雰囲気とは一変し、ガー!と聞こえそうな勢いでミナトが返事をした。

「おう!ワシに任せておけ!大船に乗った気でいろ!」

胸を叩いて自来也が豪快に答える。

「……本当は、サクモさんの弟子になりたかったんだけどな〜。」

ボソッとミナトが呟くと、また鉄拳制裁が頭の上に落ちた。

「こら!失礼な!」

「痛っ!冗談ですよ!冗談…(半分は本気だけど)でも、……サクモさんに最近、会えないんですけど、自来也先生はその理由知ってるんですか?ボク、ちゃんと下忍になれたコト、サクモさんに報告したいのに……忙しいのかなぁ…?ずっと会えないから……」

もう一度、頭を両手で押さえながら、ミナトが自来也に尋ねた。



サクモはミナトが木の葉に来た日から、何かと面倒を見てくれた。時間があれば、読み書きを教えたり、一般常識を教えたり。サクモはミナトにいつも優しく接してくれた。

そんなサクモにミナトはここ数ヶ月、会えていなかった。それがとても寂しく、心細く感じていた。


「ん〜?今のアイツは、任務以外でも忙しいからのう。何でも、独自の忍術を研究してるらしく…それと、アレも間近だしのう…」

顎に手を当て、自来也が言う。

「え…?任務以外…?アレって?」

自来也の言葉にミナトが聞き返す。すると、自来也は思ってもいなかったコトを口にした。

「サクモは近々、結婚する。嫁の腹に子供もおってなぁ…あと数ヶ月で生まれるそうだ。所帯を持つ準備らや、忍術の研究やらで忙しいだろ。」

「…………え?」



自来也の言葉を聞いたミナトは立ちつくした。その後、自来也が何か話していたが、ミナトの耳には入ってこなかった。






自来也と別れ、夕日を背にミナトは急いでサクモの家へと向かう。扉を何度も叩き、サクモの名を呼ぶ。

「サクモさん…っ!サクモさん…っ!」

家の中には人の気配は感じられない。苛立ちを感じつつ、ミナトは次の場所へと向かう。急いで向かったその先は、サクモが大切に育てている田畑だった。

黄金の稲穂が夕日の色に染まりながら風に揺れている。その地に立って、サクモの名を呼んだ。

「サクモさん…っ!」

泣き出しそうな声でサクモの名を呼ぶと、田畑の中から人の気配を感じた。

「………あれ?ミナトかい?どうかしたのか?」

田畑の中で腰を落としていたサクモが立ち上がり、ミナトの声に反応した。

「…サクモさんっ!」

サクモの姿を確認して、ミナトはすぐにサクモの側へと駆け寄る。サクモもミナトに歩み寄った。

「どうしたの?そんなに息切らせて……わかった!ミナト、下忍に合格したんだ?」

ニッコリと笑みを浮かべて、サクモが言う。それを聞いたミナトは表情を歪ませる。

「……合格しました…けど……」

「そっか!やったな!ミナト。これで、お前も木の葉の忍びだ。良かったな。」

嬉しそうにサクモが微笑み、ミナトの肩に手を置くが、ミナトはカオを俯かせた。

「…………サクモさん……結婚するって……本当なの……?」

ミナトはサクモと視線を合わせられなくて、俯きながら尋ねた。すると、数秒の間を置いて、サクモの声が聞こえてきた。

「………なんだ、知っていたのか。」

その言葉を聞き、ミナトは愕然とした。ゆっくりとカオを上げると、夕日に照らされた銀色の髪が、稲穂と同じように風に揺れている。

「結婚するコトになったんだよ。子供も産まれる。ミナト……弟だと思って、可愛がってくれよ。」

穏やかな表情でサクモが言った。サクモと初めて手を繋いだ場所で、ミナトは自分の世界が壊れたような気がした。







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2009.06.12



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