『出逢い』










「イルカ」


家主の声に応えて、一つの樹からすぅと人が現れる。





否。





ソレは人型を取った人ならざるモノ。


猫は百年生きると猫又になると云われている様に。


樹も又、長寿を経て人型を取れるようになるモノもある。


イルカと呼ばれた青年もまた数百年を経て人型を取れるようになり。


家主と交流を取るようになった。


家主は変わった人で、イルカの事を畏怖するのでも無く。


其処に在るモノとして受け入れてくれた。


イルカが人型を取れるのは花開く時期だけ。


それ以外は、樹の中で眠りにつく。


眠りといっても、睡眠を取るのは冬のみで。


ただ人型の姿を保てるのが春の花咲く季節だけなのだ。


もう少し年月を重ねれば、もしくはある条件を満たせば春・夏・秋と姿を保てるようになるのだが。


イルカにはまだそれだけの力が無かった。















「イルカ。この前の秋に生まれた俺の子供だ」


家主に大切に抱かれているのは、まだ生まれて数ヶ月の乳飲み子だ。


父に抱かれてスヤスヤと眠っている。


「奥方が出産されたのですね。おめでとうございます!名は何と付けられたのですか?」


「カカシというんだ。妻が付けた。生まれたばかりだからかもしれないが少し身体が弱くて。


最近になって外へ出れるようになったんだ」


赤子を覗き込んだら、寝ていた赤子はパチリと目を開けた。


「わ。瞳は奥方の色を受け継いだんですね。顔立ちは、サクモさんにソックリだ。


カカシ、初めまして。俺は、イルカって言うんだ。ヨロシクな」


手を伸ばし、赤子の…カカシの小さな手と握手するようにした。


イルカの声に応えるように。


きゅぅ。


握り返される手。


イルカの人差し指を、手の平全部でつかんで。


「あぁぅ」


まだ、言葉も分からない赤子は嬉しそうに笑った。















それがカカシとイルカの初めての出会い。



まだ、カカシの記憶に残る前の



温かい春の日の出来事……。










イルカにとっても忘れえぬ日々の










始まりの日―――……。
















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