『訣別・1』
「イルカ」
呼ばれて振り向けば、そこには――――………。
季節は巡り、今は春。
命の芽吹く季節に。
あの人は私に見取られながら、一人逝きました。
幼子が父の姿を見て、目を見開き。
幼くとも忍びとして育ったが故に、叫ぶことも泣く事もせず。
静かに横たわる父の姿を見つめ続けていた。
「カカシ」
ビクリと肩が動き。
ゆっくりと振り返る様は、壊れかけた機械仕掛けの人形のようで。
抱きしめる為に延ばした腕から
温かさを知る事を恐れるように身を引いたカカシ。
「ダメだよ。カカシ」
それでもなお、腕を延ばし、掴まえ、抱きしめる。
腕の中に納まってしまう幼子。
こんなに小さなカカシを一人残して逝ってしまったのか…。
共に逝くという事を強いる事も選ばせる事もせずに
一人この家で看取らせないようにサクモはこの季節まで粘った。
イルカが人型の姿を取り、カカシの傍に居られる季節まで。
「カカシ、サクモさんは一人で旅立ってしまった……。
でもね。
心には、いつもカカシが居た。
どんなに辛くても、苦しくてもサクモさんにとってカカシはたった一つの
宝物で。
救いだったんだよ。
それを忘れないでいて」
腕の中の幼子が、ゆっくりと息をし。
段々と呼吸の感覚が短くなり。
「カカシ、泣きなさい。ちゃんと心の声を外に出しなさい。
此処には、サクモさんと私しか居ないから」
慰撫する手の平と優しい声に導かれて。
「あぁああああああああぁぁ――――っっ」
カカシは悲鳴をあげながら………………泣いた。
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