『訣別・2』










悲鳴を上げ泣き続けるカカシを抱きしめて


イルカは静かに眠るサクモを見つめた。










サクモさんの死は表向き『自殺』として里へ伝えられるだろう。


『自殺』の理由は、事前に里に流された噂が肯定してくれる。


そう…、任務を遂行しなかった、として仲間から糾弾され弱り果てた…と、して。






本当は違う。


彼は、任務で受けた毒に犯されていた。


それは、木の葉には無い新種の毒で。


解毒薬も無い毒。


けれども、サクモが死ねばその遺体から毒を中和する薬剤が出来上がる。


ソレこそが本当にサクモに与えられた『任務』だった。


サクモの中にある血がソレを中和するから。


サクモにしか受けることの出来ない任務だった。


里は、サクモの特異体質を知っていた。


だからこそ、サクモの忍びとしての技量よりも


他の忍び…数を選び。


新種の毒に対する解毒を得る為に、里はサクモを贄にした。


サクモは解毒薬を作るという『任務』を拝命し







そして身体に毒を ―――――… 『死』を受け入れた。










中和剤が体内で出来上がるまでに暫らくの時間が掛かったが、冬の最中には完成はしていた。


けれども、サクモはその事を里に感取らせずに、激痛に耐え春まで待った。


何よりも大切な愛し児が、心許している者が現れるその日まで。


愛し児が孤独に襲われて、心を殺さないよう


心を壊さないよう


サクモは最後の最期まで静かに戦い続けた。










そして今日。


一つの花が咲き。


目を覚ましたイルカを呼び。


託した。


何よりも誰よりも愛しい我が子を。










「……カカシはサクモさんが好き?」


涙を流しならが、顔を上げ。


それでも強い瞳で。


「……好き、大好き…」


答えるカカシに、イルカは優しく告げる。


「カカシ、これから噂を信じた人々がサクモさんの事を悪し様に言うだろう。


でもね。


惑わされてはいけないよ。


カカシだけは、サクモさんが何を思い、何の為に任務を遂行したか覚えていなさい。


忘れてはいけない。


サクモさんは最期まで迷っていた。


カカシを一人残すことを」


「なら、何でっっ!!」


声を荒げたカカシの唇に指を当て、黙らせる。


「今日、起きた私を呼んでね。……言ったんだ」






それは信じられないくらい



静かな穏やかな表情で。






『イルカ、カカシを頼む。


今まで何とか里を欺いてきたが、正直、身体が限界に来ている……。


今日、任務を遂行しようと思う。


カカシも今は任務に出ていていないし…な。


里には明日の朝、迎えを寄越すよう伝えてある。


ただ、今日帰ってくるカカシの傍に居てやって欲しい』


イルカには判っていた。


本来ならサクモは中和剤が完成したときに命の焔も消えていたはずだった。


それを延ばしたのは、他の何でもないカカシの存在だという事も。


最期の命の焔を燃やして、今、此処に居ることも。


だから。


『なら、何故連れて行かない。カカシは喜んでサクモと共に逝くと思うが』


『……連れて行こうと思った。これから一人で生きていかなければいけないのなら。


独り置いていかなければいけないのなら、共に、と…何度も思ったさ。


けどね、イルカ。


死を選んでしまったら、其処で終わりなんだ。


この世界にある美しいものも、温かいものも知らずに終わってしまう。


私にアイツが居たように、カカシにも愛しい人と出逢って、幸せと云うものを


知って欲しいんだ。


…親のエゴでしか無いけれど。


私は、妻と出会い、恋しさを、安らぎを知った。


カカシが生まれて、愛しさを、温もりを知った。


幸せは妻とカカシが与えてくれた。


何物にも代え難い、そんな感情が、思い出が、此処にある。


カカシにも知って欲しいんだ。


これから生きて、生きて、生きて。


たくさんの出会いと別れを繰り返しながらも、一つずつ掴んで欲しいんだ。


カカシの幸せを』






縁側から庭を、その先にある里を見つめサクモは微笑んだ。






『本当は死にたく無い。生きられるなら生きたい。


けれど、新種の毒の中和剤が出来なければ……いつか、木の葉の里が、


カカシが死んでしまう…。


私は、カカシを愛している。里を愛している。


カカシと里が生きて行くための礎になれるなら、本望なんだと云うことに気付いたんだ。


イルカには辛い思いをさせてしまうけれど、看取ってくれないか?


私が逝くのを。


そして、カカシに伝えて欲しい。


私が死に逝くのは里に命令されたからではない。


護りたいものがあるから、守り抜くために逝くのだと。


そして、愛している、と』










そう言って。







命が芽生えるこの季節に。





育んだ命を繋いでいく為に。















彼は一人逝った……。