『花違え』










桜が咲き


梅は散る


季節の移り変わりと共に、花も移ろい逝く






………はずだった。










「…何したんですか」


「ちょっと細工をしてみましたv」


「細工ってコレがですか!?」


喜んでもらえると思ったのに、イルカ先生は違う反応を返して来た。


哀しいような、辛い気持ちを押し込めているそんな表情。


何か間違えたのだろうか?


でも、花が咲くのを『綺麗』と喜び


花が散るのを『寂しい』と悲しんでいたから


喜んでもらえるように、自分の家の庭に流れる『時』を少し弄ったのだ。


少しでも長く花が華であるように…。


それは、いけないことなのだろうか?


「元に戻して下さい。ちゃんと花の時を戻してください」


イルカ先生がそれを望むなら叶えたいけれど。


何でいけないんだろう。


「カカシさん」


あ、俺の好きな呼び方で呼んでくれた。


「俺はね。確かに花を見て『綺麗』だと言って、散りゆく様を見て『寂しいですね』と言いました。


けれども、季節が巡ればまた花には逢えるんです。


無理矢理『時』を止めたりしないで下さい。


…忘れても良いんですよ?


共に居て、その時に感じた感情を、思い出を、心の片隅にしまってくれれば花も本望です。


昔あんな花もあったと、時折思い出す、その程度で良いんですよ。 ね?」


言っている意味、分かりますよね?


なんて。


俺の好きな微笑を浮かべて言うイルカ先生。


酷いなぁ……、貴方を失って、思い出だけで生きていけなんて。


忘れたくないんです。


共に居たいんです。






望んだのは貴方と過ごす日々






「おはよう」と言って



「おやすみ」って言って



毎日繰り返す単調な流れ



望んだのはそれだけなのに。



ずっとずっと一緒に居たいだけなのに。



それすらも叶えてくれない……。







「酷いなぁ、イルカ先生は。…………でも、貴方がそう望むなら…」







――――… 伝えてはいないけれど。


貴方が好きなんです。貴方だけが、愛しくて恋しいんです。


貴方と一緒に居たいんです。







なのに、現実は容赦なく俺から貴方を奪っていく。


けれども貴方の望みだから叶えるよ。


ゆっくりと解術の印を結んでいく。


ゆっくりと庭の『時』が動き出し、イルカ先生の姿が薄らいでゆく。


それと同時に散り逝く花達。


「…カカシさん、ありがとう。少しでも長く一緒に、と思ってくれる その心が嬉しいです。


けれども時を止める事は出来ません。


しては駄目なんです。


…そうですね。


貴方が俺を忘れる事が無く、この先も求めてくれるのなら。


………春に、なったら……また春になったら逢いましょう」


イルカ先生の姿が薄らいで、桜の木とダブっていく。


「この木の下で。貴方と再び逢える日を夢見て……お れ   は ……」





完全にイルカ先生の姿が消えた。





庭で咲き誇っていた桜は、一つの花びらもなく。





全て散った。





消えてしまった愛しい人の姿を思い描いて、俺は静かに涙を流した。


また、来年のこの季節に出会えることを夢見て。


桜の精霊であるイルカは、花が散ると眠りについてしまう。


そして、また春に息吹いて眠りから目覚める。


逢えない日々のなんと長いことか。


これからの照りつける日差しも、錦織のように色づく里を渡る風の中にも、


雪降り積もる日も貴方が傍に居ない……。


それでも、貴方が愛しくて恋しくて切ないから。


あなたを想って待ち続けます。










次の春に。







花開く日まで……。







貴方にまた巡り逢えるまで。










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