本を読まない

波風ミナトはサクモが本ばかり読むことを嫌がった。
「ん! 本を置いてください。食事にしましょう」
「サクモさん、見てください。向日葵が綺麗に咲きましたよ」
「新しい忍具に術式を入れたいので、相談にのってください」
何かしら、サクモの興味を引きそうなことを持ちだして、頁から顔を上げさせようと努力していた。
褥の中では、もっとはっきりと、希望をあらわした。
「本なんか見ていないで。おれを見てください」
囁いてミナトは、長い指のきれいな手で、サクモの両頬を挟み、キスを仕掛ける。
隣に寝ているカカシは、眠ったふり、見ないふりを通した。

内に、内にこもる性質のサクモをミナトは心配していたのだろう。
活字の世界になどとられるのが嫌で、自分がサクモを独占したかったのも事実だろう。
ミナトの独占欲は凄まじかった。
「おれがサクモさんより十歳も年上だったら、もう、小さいときから、サクモさんをおれの腕の中に囲って、本なんか読ませないし、カカシのお母さんにも出会わせなかったのに」
カカシの前でも、平気で言う。
「じゃあ、オレ、生まれないよ?」
少し悲しくなってカカシが言うと、ミナトはにっこりと笑い、カカシを抱きしめて、頬にキスをする。
「だけど、現実は、おれがサクモさんより十歳も年下だし、サクモさんは本ばかり読むし、カカシのお母さんに出会ってるし、カカシくんが生まれてるだろう? おれは、きみを愛してるよ」
自分も先生が大好きだ、とカカシは思った。
だから、出会えてよかったな、とも。

ミナトの想いを理解したのは、大人になってから、もっと正確に言うと、恋を知ってからだ。
カカシは、彼に会うときはイチャパラを、師の師が著した大事な本を置く。
彼が、授業準備のために読みこんでいる本が憎くなる。
「イルカ先生」
囁き、背中から抱きつく。
「ま、本なんか置いておきなさいよ。本から学べることは多いですけど、本から学べないことは、もっと多いです」
「そりゃ、実践にまさる学習はないですけれど、理論の重要性は」
先生らしい顔をする恋人の唇を、接吻で塞ぐ。

本を読まないで。
目の前にいるオレと。
現実の恋をしましょう。

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