パーティはこれから

冬の午後。
淡い光が満ちるサンルームの床は、色とりどりの布で埋めつくされていた。
キャミソールだけで、着替えの真っ最中といった様子の女性二人が、くすくす笑いながら、一枚をとっては床に落とし、また、別の一枚をとる。
銀色の髪の女性が、真紅の布を手にする。
「ね、赤がいい。黒髪に映えるから。イルカの黒い髪、すごく綺麗」
黒い髪を背に流した黒い瞳の、イルカと呼ばれた女性ははにかんで俯き、ひどく小さな声で言う。
「カカシさんの銀色の髪のほうが、ずっと綺麗です」
「そう? そんなこと言ってくれるの、先生以外にはイルカだけ」
カカシはイルカの薄い肩を抱き寄せ、髪をかきあげながらキスをする。
イルカは、柔らかなその感触をおとなしく受ける。
「綺麗なのは、イルカ」
くちづけの後、そっと耳に囁き、カカシは微笑む。
イルカは頬を赤らめて俯く。
直線的な足音が、甘い空気を乱した。
「こんなことだと思った」
金髪碧眼の青年、波風ミナトが、布をかきわけて進んでくる。
「女の子ってのは、放っておけば、世界が終わってもファッションショーをやってるんだからね。はい。カカシはピンク。イルカはこの赤いの」
ミナトは照れる様子もなく、さっさと選んでいく。
「あ、やっぱり。私も、イルカにはそれがいちばん似合うって思ってました」
カカシは黒い瞳を、きらきらとさせる。
「ん、見た瞬間にわかるのに。なぜ、こんなに何時間もかかって、部屋をここまで散らかさなきゃいけないんだか」
ミナトは嘆息する。
「イルカ、着せてあげる」
嬉しそうにイルカを構うカカシに、ぴしゃり、とミナトが言う。
「カカシ、自分の用意をしなさい。まだ、髪や顔を作る時間も要るんだよね」
カカシは首を竦めてみせる。
「かあさまは?」
「サクモさんは青いサテン」
「先生が選んだの?」
「ん、サクモさんが、自分で選べると思う?」
問い返すミナトに、カカシは首を横に振ってみせる。
「アクセサリも出しておいたから。早くね」
言い置き、ミナトは部屋を出ていった。
ミナトがいる間じゅう、ドレスを胸に当てて固まっていたイルカが、全身で息を吐く。
カカシはくすっと笑った。
「緊張しなくても大丈夫。先生にはね、ま、私たちなんて三歳くらいのちっちゃい女の子にしか見えてないから」
「そうですね。ミナト様が女として意識なさるのはサクモ様だけですね」
「そう。かあさましか見えてないの。私に、イルカしか見えてないみたいに」
くすくす笑いながら、カカシはまたイルカの肌に口付ける。
「んっ、だめです、カカシさん。早く準備しないと、また叱られちゃいます」
「じゃ、一回だけ」
カカシは唇で軽くイルカのそれに触れ、うっとりと微笑んだ。

「おれの娘たちは、天使も羨むくらいに美しいね」
装いのできあがったカカシとイルカの頬に、ミナトは交互にキスをする。
「かあさま」
「サクモ様」
「「の次に?」」
カカシとイルカの声が合う。
「ん、いちばんは、もちろん、そうだけどね」
ミナトは恭しくサクモの手を取り、魅力的な笑顔で言う。
青いドレスと、サファイヤで胸元を飾ったサクモは、こどものように首を傾げた。
「イルカさんの黒髪のほうが綺麗ですよ」
そして、白い手をのばして、イルカの髪を纏めたルビーを直す。
「赤い色が、黒髪に映えてとても綺麗」
カカシと同じような言葉を発し、サクモはにっこりと笑う。
「サクモさんの銀髪のほうが綺麗です」
ミナトがサクモの耳元に囁いて、その肩を抱き寄せる。
「かあさまでも、イルカに触っちゃだめ」
カカシが、イルカを抱きよせる。
イルカは、ルビーのように頬を赤くした。

金色と銀色と黒色と。
サファイヤとルビーとパールピンクと。
夢に似た色彩が、その場にいるすべての人の心を騒がせるのは、近い未来の話だった。
クリスマスパーティは、まだ、これから。

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