長い物語になりますが、聞いてくれますか?
オレの父と先生の話です。

木の葉の白い牙と呼ばれた男。
後に、黄色い閃光と呼ばれるようになる金髪碧眼の青年。
「愛している。愛しているんです。それじゃ駄目ですか。それだけじゃ駄目ですか。あなたを包み込めるような大人の男じゃないから、ほんのガキのおれだから、駄目ですか」
金髪の青年は、愛を知らない白銀の髪の男に、愛だけを武器に恋をうたう。

Я люблю тебя(ヤー リュブリュー ティエビャー)
ダイジェスト

  Спи, младенец мой прекрасный,
  Баюшки-баю.
  Я люблю тебя. Я люблю тебя.
  Баюшки-баю.

「ずっと気になっていたんですが、どういう意味なんですか?」
魅力的な笑顔で、青年はサクモを見て尋ねてくる。
「ああ、子守唄らしいです。ねんねんころりよ、坊や、おやすみ。愛してるから、おやすみなさい。他愛ない歌詞ですよ」
「他愛ない?」
青年は、大きく息を吐く。サクモは、青年の顔を覗きこみ、碧眼を凝視してもう一度、問う。
「何か、あったんですか」
「あったとも言えるし、なかったとも言えます」
青年はサクモの腕を引き、寝具の中に引きこむ。
「どちらなんですか?」
こうした言葉遊びのようなやりとりが、サクモは特に苦手だ。
「さあ。どちらでしょう?」
くすくすと笑い、青年はサクモを胸に抱きこむ。
すぐに降りてくる唇を、サクモは目を閉じて受ける。最初に、キスのときは目を閉じろと青年が言ったので、それをかたくなに守っている。
だが、閉じた目を、サクモは驚きで見開く。
「薬を?」
呼気にかすかに混じった匂い。毛穴からも同じ異臭がする。
「おれね、酒を飲むのは好きなんですけど、酔えないんです。煙草は、カカシがいるから、こどもの前でなんて吸えないでしょう。女がいちばん楽だけど、勃たないんです。おれ、もう、あなたにしか、勃たない」
青年は、笑顔のままだ。
「わけがわからなくなるまで、めちゃくちゃになるまで、あなたを抱きたい。でも、それは出来ない」
言の通り、青年がサクモに無理を強いることはない。寝台で、一緒に眠ることは譲らないが、行為に至らないことのほうが多い。セックスをするとなっても、優しく、サクモになるべく負担をかけないように、細心の注意を払ってくれているのが伝わってくる。
「だから、後は、薬しかないでしょう。ん、気休めみたいなもので、さして効果がありはしないですけどね」
嘘だ。青年ほどの耐性をつけている身体に、効果を出させるものなど劇薬しか有り得ない。そして、この匂いは、それを示している。
「なぜ、なぜ、そんなものを」
サクモの手が震える。任務の辛さから、薬に手を出す忍者は後をたたない。自身を廃人にするとわかっていても、だ。里としても国としても懸案の事項で、幾度も撲滅のキャンペーンを張ってきた。青年は、いわば、その陣頭指揮を執る身ではないのか。
「自来也先生に聞いたでしょう。おれ、ろくなものじゃないんです。取り繕うのがうまいだけ。たくさん人を殺すから、里が重宝しているだけ」
青年は、くすくすと笑うのを止めない。
「おれなんかが、サクモさんに触っちゃいけないんですって。おれじゃ、サクモさんを壊すことしかしない。ろくなことをしやしないって。愛してるのに。こんなに愛してるのに」
青年は、サクモの胸に顔を埋める。サクモは、おそるおそるその背に腕を回す。骨も砕けそうなほどに、青年が強く抱きしめてきた。

「愛している。愛しているんです。それじゃ駄目ですか。それだけじゃ駄目ですか。あなたを包み込めるような大人の男じゃないから、ほんのガキのおれだから、駄目ですか」

青年は身を下げ、サクモの股間に頭を埋める。
「…! いやっ! いやです」
青年の意図に気付き、サクモは、青年の頭を押しやろうとする。
いやだ。これは、いやだ。
しかし、青年は退かなかった。圧迫する力で、サクモの両の大腿を押え、唇でサクモのペニスを吸いあげる。
忍者はこの行為を嫌う。急所を噛み切られれば終わりだ。同じように、キスも厭う。サクモも、忍ではない妻をいだくのでさえ、最小限の接触しかしなかった。もっとも、サクモの場合は忍に徹しているというより、そうした性質だったのだが。
性欲は弱く、触れ合うことが怖い。
青年の行為によって、全身に恐怖が広がる。
「いや、やめてください!」
サクモがどんなに懇願しても、青年は、口をはなさない。
くちゅり、くちゅり。湿った水音を、わざとのように立てながら、しゃぶる。
「あ」
青年の熱く柔らかな口内に、性器は興奮しだした。気持がいい、と震える。気持がいい、と育っていく。
「や、あ」
サクモは、二の腕の内側で顔を覆う。いやなのに。こんなことをされるのは、いやなのに。すごく、気持ちがいい。
「あ、あ」
舌を使って舐めあげられ、強く吸われると、あっさりと青年の口の中に射精した。待ちかまえたように、青年は精液を嚥下する。
全てを飲みほし、青年は口の端を手でぬぐい、にやり、と笑う。赤く染まった唇が、扇情的だ。
「美味しい。サクモさんの、全部、飲みたかったんです」
言うと、青年はサクモの手を取り、その雄に触れさせる。
「サクモさんのだってだけでね、口で感じちゃった」
手に触れる雄は、かたく、熱い。
思わず、視線が追う。
彫刻のような身体だった。長身に手足が長い体格は、細身を印象づけるが、全裸になると、まっすぐな骨格に沿って、一切の無駄なく、活動的な筋肉で鎧われているのがわかる。若さに輝くような肉体の中心で、金色の下生えに守られて、張り詰める男根。
それは、他の何よりも、サクモを恐怖させる。
自分の物とは、全く違う。最強のオスである証。
「嫌わないで。コレがサクモさんを気持ちよくさせるんですから」
サクモの表情を見てとったのか、青年が優しく言う。
そっと、サクモは指を動かす。つるつるとした、熱いペニス。
「ん、それだけでイキそう」
青年はサクモの手の上に、己の手を重ねる。そのまま、激しく擦らせる。弾力が、手に伝わる。
いきなり、青年はサクモの手を退かせた。膝でずりあがり、膨張した性器をサクモの顔の上に当てる。そのまま、サクモの顔に放った。サクモは除けるでもなく、呆然と、されるがままになっている。何をされたのかも、よく、わからない。
「サクモさん。サクモさんの綺麗な顔を、おれので汚しました」

若さに任せた青年の恋。
翻弄されつつ、その意味を知っていくサクモ。

「父さま、辛い?」
カカシが伸びあがり、小さな掌をサクモに額に当てる。
「大丈夫だーよ」
サクモは微笑し、カカシを抱きしめる。
愛しい。カカシが愛しい。
突き上げてきた衝動に、サクモは動揺する。
カカシは可愛い。ずっとそれは思ってきた。しかし、この、泣きたくなるような愛しさは、なんだろう。
「カカシ。父さまは、カカシを愛してるよ。とてもとても愛しているよ」

  Спи, младенец мой прекрасный,
  Баюшки-баю.
  Я люблю тебя. Я люблю тебя.
  Баюшки-баю.

他愛ない? 問い返した、青年の声が耳に蘇る。
愛している。その言葉を口にするだけで、涙が出る。
カカシを抱きしめたまま、他愛ないと自分で評した唄に、サクモは泣いた。

「あなたに言いたいことがあるんです。ずっと機会がなくて、言えなくて、このまま言えずに死ぬのはいやだと思って」
「死ぬなんて、やめてください!」

Я люблю тебя.
ヤー リュブリュー ティエビャー。

不思議な響きの、泣きたくなるような言葉。
伝えられる子守唄。
伝えられる言葉。

「昔ね、父と住んでた頃にね」
語られる、長い物語。

Я люблю тебя.
ヤー リュブリュー ティエビャー。

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