クォ ヴァディス

月夜、慰霊碑の前に佇むはたけカカシの背に向かって、奈良シカマルは、冷静な声で言った。
「カカシ先生。先生は、今日からおれのものスから」
カカシは、首だけで振り返る。
「あれ? オレの意思とか意向は関係なーいの?」
「ありません。アスマの先公の遺産は、全部、おれが貰うと決めました。アスマ先生が大事にしてたもんは、全部、おれが大事にします」
先生、よりも、先公、と言ったときに、敬意がこめられていた。
愛惜が滲んでいた。
カカシは、やっと身体ごとシカマルに向きなおる。
恋の告白というには、あまりにそれの雰囲気とは不向きな、下衣のポケットに両手を突っ込んで、不機嫌な表情をした少年を見る。
「オレとアスマは、そんな関係じゃなーいよ」
過去形で、カカシは語らなかった。
シカマルは、重々しく頷く。
「知ってます。でなけりゃ、紅先生にお子さんが出来ません。でも、おれは、アスマと同じにやるつもりは無いんス。できもしないし。やり遺したことを、やりたかっただろうことを、おれなりの解釈と、やり方でやらせてもらいます」
シカマルは、ゆっくりとカカシとの間隔をつめていく。
「おれ、あなたを愛します」
カカシの胸に額を当て、くぐもった声で、シカマルは言う。
カカシは動かなかった。
優しい、優しい声音で言う。
「努力目標みたいだね。努力して、愛するの?」
「努力して、忘れるより、前向きだたあ思いませんか」
疑問形ではなく、強調する口調に聞こえた。
カカシの耳にも、シカマルの耳にも。
「あなたは、おれのことを愛さなくても、他にも、何もしなくていいス。ただ、おれのものでいてください」
カカシは、口布を下げた。
泣いているような顔で、笑う。
その表情のまま、少し、腰をかがめて、シカマルの唇にキスをした。
風よりも短く、淡い感触で。
「オレは、おまえが好きだよ。シカマル」
カカシは口布を上げた。
その布の下に、先刻までの表情が消えることなく在ることは、シカマルに容易に想像できた。
「そういうの、いちばん困るんです。他の誰かと同じ、同僚の生徒として可愛い、みたいな好きっての。いっそ、憎まれでもしていたほうが、始めやすい」
「難しいほうが、いいでしょ」
カカシの笑いが、微妙に揶揄するようなものになった。
「そういう趣味はないスよ。でも、始めましょう」
シカマルは、宣戦布告のように、言った。
そして、伸び上がるようにして、カカシの口布越しに口付けた。

ここから、始まる。

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