祝福を、祝福を

奈良シカマルは、秋道チョウジが、勢いよく肉を口に運ぶ姿を、半ば呆れ気味、半ば感心して見ていた。
「シカマルも食べなよ。この辺、焼けてるよ」
チョウジは幸せそうな顔で咀嚼し、箸で、鉄板から肉を取り、シカマルの皿にのせる。
「あ、ああ、サンキュ。てか、ここ、おれの奢りだったよな?」
「そうそう。だから、遠慮しないで。あ、おばちゃん、タン塩とロース追加ね」
さらに幸福そうな顔で言い、追加注文もしてしまうチョウジに、シカマルは笑みをもらし、肉を食べる。
こんなに、人が食べる姿を見るのは久し振りだ、とシカマルは思う。

チョウジと比べるのは難としても、はたけカカシは、あまり物を食べない。
全く食べないわけではなく、人と食事をするのも好きなようだが、自分の適量を摂ってしまうと、後は笑って、他が食べる様を見ていることが多い。
シカマルと二人のときでも、そうだ。
にこにことシカマルが食べる様子を見ている時間のほうが長く、そして、決してシカマルに会計をもたせてくれない。
七班はじめ、他の人間がいるときは、何かの名目がない限り、「ケチ」と言われながらも、全額を払うことは無いのに。
それは、彼の教育方針であるらしく、最終的には、カカシの負担ばかりが増えていることをシカマルは知っているが、それでも、「奢ってくれる人」には、カカシはなろうとしないのに。
少しは彼氏の顔を立てようて気はないんスか。
シカマルが不満をもらすと、その「彼氏」という言葉がつぼに入ったらしく、カカシはずっと笑い転げていた。
もちろん、わざと使った用語だ。
カカシを彼女とする気も度胸もないが、シカマルは自分を、カカシの男、だと自負している。
あまりに、カカシが笑い続けるので、ベッドに放りこんでから、その語を使用した。
おれ、あんたの男なんだから。たまには、男の顔を立てろってこと!
立ててるよ。
カカシは、ひどく艶っぽい表情で言い、自分から口付けてきた。

デートをする。
セックスをする。
だけど。
カカシは一度も、シカマルに、好きだ、愛している、と言ってくれたことはない。
シカマルがそう言ったときに、「オレも」と同意してくれたことさえ、ない。
笑って。
いつも笑って、シカマルを見ている。

「ちょっとお、あんたたち、アタシが来るまで待ちなさいよ」
いきなり怒った声をあげながら、山中いのが、席にあがってきた。
「いのの分、残してあるよ。はい、野菜」
チョウジが、大皿を渡す。
「何、それ。アタシに肉を食べさせない気?!」
いのは、チョウジを睨む。
「だって、いの、ダイエット中なんでしょ」
言う間も、チョウジは肉を食らう。
「シカマルの奢りなんでしょ。そうとなったら、話は別。今日は別! あ、こっち、ウーロン茶と盛り合わせ、お願いしまあす!」
景気よく、注文を出すいのに、シカマルは、己の財布が心配になってきた。
新米中忍の懐など、折々の任務の達成報酬を入れても、たいしたものであるわけが、ない。
いのの注文が来たところで、チョウジも、ウーロン茶のジョッキを持った。
「じゃ、いのも来たし。改めて、乾杯しよ」
「あ、ああ」
シカマルも、ウーロン茶のグラスを持つ。
「「シカマルの初恋成就を祝って乾杯!!」」
いのとチョウジの声が綺麗に合い、シカマルは、グラスごと固まった。
「まっさか、面倒くさがりのあんたが、いちばん先に恋人を作るとはねー。アタシも負けてらんないわ!」
いのは言い、ウーロン茶をあおって拳を握りしめる。
「シカマルはいい奴だもん。絶対にもてるって、ボクはわかってたよ」
チョウジは、にこにこしている。
その表情が、どこか、なぜか、カカシがシカマルを見るときに似ていた。
「お、おい、今日は、おれのAランク任務達成祝いって言ったじゃねえか。それにしたって、なんで、おれもちなのか、疑問だったけどよ」
「いいじゃないよー。口実はなんでも。それにね、幸せな人は、周りにお裾分けしたら、なお幸せになれるんだから」
さっさと肉を焼きながら、いのは言う。
「幸せって…。それに、なんで、おまえら、知って」
「「知ってるに決まってるでしょ」」
また、チョウジといのの声が合った。
「あんたとカカシ先生が二人でいるの、どれだけ、見てると思うのよ。そんときの、あんたたちの顔ったら!」
「ボク、カカシ先生に言ったんだ。シカマルはいい奴ですから。よろしくお願いしますって。そしたら、カカシ先生、知ってるよ、任せてって言ってくれたよ」
なおのこと、シカマルは固まった。
「そんな、チョウジには、なんで…」
呟いてから、シカマルは、肩を落とす。
「それ、そういう意味じゃねえよ。任務の上、忍としてってことだ。あのひとには、おれは、いつまでたっても、教え子の同期の子供たちの一人だ」
チョウジが目を見開き、いのの箸が止まった。
「あんた、頭、いいのに、バカねえ」
いのが嘆息する。
「サクラが言ってたけど、カカシ先生、人前でイチャパラ開いてるような人だけど、恋愛には興味がないっていうか、特別な人を作らないようしてるのがわかるって。それが、そこまで言ってくれたのよ?」
確かに、中忍になってからも、シカマルは、カカシの恋愛方面の噂など聞いたことがなかった。
「カカシ先生はシカマルが好きだよ、大好きだよ。そういう顔して、見てるじゃない」
チョウジが言う。
「それで、シカマルも、カカシ先生が大好きって顔で見てる。両思いっていいよね」
がっくりと、シカマルはテーブルに顔を伏せた。
恥ずかしい。
隠すつもりは、シカマルには毛頭、なかったが、そんなバカップルの雰囲気をさらけだしているなど、考えてもみなかった。
「でも、でもよ、男ってか、大人として扱われてねえんだよ。食事とか行っても、カカシ先生に払われちまうしさ」
まるで照れ隠しのように、シカマルは、ぼそぼそと言う。
「バカねえ」
また、いのが言った。
「女の子が奢って貰わない人って、本命の本命なのよ。自分にかけてもらうお金の量で相手の愛をはかる段階じゃないってことでしょ。相手の懐具合まで心配するって、ものすごい愛なんだから」
「そうだよ。父ちゃんと母ちゃんと出かけるとき、父ちゃんじゃなくて母ちゃんが払うじゃない」
チョウジが、わかりやすい例を出す。
「そんな、夫婦とは違…」
言いかけて、シカマルは諦めた。
同期の、他チームの上忍師として。
自分の、上忍師の友達として。
同じ里の仲間として。
シカマルは、カカシを知っている。
不意に、シカマルは理解した。
カカシが、シカマルに直接的な言葉を言ってくれないのは。
照れているからだ。
そして、怯えているからだ。
カカシを愛しているよ。
そう言って、永遠に去っていってしまった人を、彼はなんと多くかかえていることか。
「ありがとう」
顔を上げて、シカマルは、チョウジといのに言った。
「ボクね、カカシ先生、大好きだし、あ、アスマ先生の次だけどね、だから、シカマルと幸せなら、嬉しい。でも、ボクは、ずっと一生、シカマルの味方だからね。なんかあったら、頼ってね」
「そうよ。アタシたちは、一生、イノシカチョウなんだから! ちゃんと言うのよ! ぐるぐる考えて、自分ひとりで変な納得しちゃう前に!」
チョウジが言い、いのが続く。
「ありがとな」
もう一度、シカマルは言った。そして、語を継ぐ。
「おれも、ずっとチョウジといのの味方だからな。おれたちは、一生、イノシカチョウで、第八班だ」
顔を見合わせ、同時に、気恥ずかしくなったように、にしゃっと笑いあう。
「おばちゃんー。肉、追加!」
照れ隠しのように、チョウジが大声を出す。
「ああ、もう。まさか、シカマルにあやかりたいと思う日が来るなんて! でも、幸せオーラがある人のそばにいれば、恋愛パワーも充実するのよね。その尻尾、触って、いい?」
いのが早口で言う。

大事な人が、ただ、幸せあるように。
若く、純粋な祝福が、肉と一緒にテーブルに載せられていた。

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