11月の…

木枯らしがカカシの細く白い項に吹き付ける。
反射的に、カカシは首を竦めた。
「大丈夫? カカシくん」
ミナトは目ざとく見つけ、カカシの首巻を直す。
「大丈夫。先生は寒くない?」
カカシは金髪碧眼の青年を見上げる。
彼は細い身にロングジャケットを羽織っているだけで、カカシよりずっと軽装だった。
「平気、平気。燃える男だからねー。おれ」
言って、肩の荷を掛けなおし、カカシの頭を撫でる。
カカシは両手で鞄をぎゅっと握り、擽ったそうな顔をした。

背の高い青年と、小さな男の子と二人、なだらかな坂道を行く。
もう、随分と通いなれた道だ。
丘をのぼりきった所に、白い建物がある。
それが見えると、カカシは駆け足になった。
「カカシ、そんなに急いだら、転ぶよ」
ミナトの制止もきかず、カカシはころころと走る。
ミナトは、声を大きくする。
「急がなくても、面会時間はたっぷりあるから」
「でも、でも。この間、会えなかったから、一ヶ月ぶりなんだもん!」
振り返って、カカシが切羽詰ったような顔で言う。
「わかった」
ミナトは、長い足を駆使して大股でカカシに近づき、カカシの荷物を奪い、さっさと追い抜いていった。
「先生、ずるい!」
頬を膨らませて、カカシはミナトの後を追った。

「父さま!」
寝台に起きあがった若い男に、カカシは飛びついた。
「カカシ」
カカシの父、サクモは愛児の名を呼び、抱きしめる。
「ん、顔色、よさそうですね」
ミナトはゆったりと歩みより、サクモの長い銀髪をかきわけ、額に手を当てる。
「熱もないし」
「ずっと調子はいいんですよ。今日も、こんなに寒くならなかったら、外に出てもいいって許可を貰っていたんですが」
サクモは、悔しそうに窓の外を見る。
「だめ、だめ。風がね、ぴゅーっと吹いてるんだから。父さまは、外に出たら、だめ。お外の用事はカカシがしてあげる」
幼い面に似合わないしかめつらしい顔で言い、カカシは父の胸から降りると、慣れた様子で、花の入った花瓶をかかえ、水をかえに出ていった。
「手際がいいなあ。カカシくんは」
ミナトは、感心したように言う。
「……カカシに、こんなことに、慣れさせてしまって……」
サクモは俯いて、唇を噛む。
ひょい、とその顎をとらえ、ミナトはサクモにキスをした。
サクモは、ミナトの胸を押しかえす。
「いけません。ミナト様」
あっさりとサクモの抵抗を封じ、ミナトはサクモを抱きこんで言う。
「じゃ、サクモさんも、さっきみたいなこと、言わないように。あなたは、自分が良くなることだけを考えてください」
「……すみません」
「謝るのも無し。もう一度、キスしなきゃいけませんか? おれは大歓迎ですけど」
ふわり、とサクモは笑った。
「ん。おれ、サクモさんの笑った顔、大好きです」
ミナトも、輝くように笑み、荷物の整理を始めた。
「冬物と入れ替えますね。このへんのは全部、持って帰っていいですか」
詫びの言葉を発しようとして飲み込んだのか、サクモは先刻よりももっと淡く笑む。
「お願いします」
ミナトが眩しそうに目を細め、何か語を紡ごうとしたとき、カカシが戻ってきた。
「父さま。お花、増えちゃった」
言の通り、数本の花が増えている。
「どうしたの?」
ミナトが問う。
「お父さんのお見舞い、えらいねえって、おばちゃんがくれたの。ポケットにお菓子も入れてくれた」
「カカシくんはマダムキラーだなあ」
ミナトがからかうように言う。
「マダムキラーってなに?」
カカシは、邪気なく父に尋ねる。
サクモは返答に困って、ミナトを見る。
「カカシがいい子だって、みんなが知ってるってことだよ」
ミナトは真剣な顔で言い、カカシの髪の毛をくしゃくしゃにした。

11月の、もう冬の風がサナトリウムに吹きつける。
だが、建物の中はとても暖かい。

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