金髪の少年 20(完結)

火の国は、風の国に勝利した。
木の葉忍者が砂忍者に勝利した、と表現しても良い。
木の葉の白い牙、はたけサクモは、砂に是有りと名高いカラクリ遣いのくの一、チヨの息子を倒した。
金髪の青年も早すぎる瞬身の術で、木の葉の黄色い閃光、とふたつ名を頂くようになった。
青年は、嘆いた。
「格好よくないなあ。金色(こんじき)のなんとか、にしてくれないかなあ」
「徳が高い僧みたいですね」
「瞬間は、黄色にしか見えないよ」
サクモとカカシが言う。
「そりゃ、サクモはさんは白い牙、なんて格好いい名前がついてますからね、いいでしょうけど。カカシもそのうち、つくんだよ。そのときに、いやだって言っても知らないからね」
ひどく不機嫌に、青年は八つ当たりする。
サクモが笑う。
「意外ですね。あなたが、他人からどう称されるかを気にするなんて。スタイリストだったんですね」
憮然として青年は、サクモにすすめられた酒をひと息に干す。
戦闘終結後、三人が揃って自宅で寛ぐのは久しぶりだった。
縁側に吹く風は秋を感じさせるものになり、風鈴の音は冴えて響く。
サクモは、カカシの浴衣の袖を引っ張っている。
「一年で大きくなったな。来年は、新しいのを仕立てないと」
カカシは弾んだ声で言う。
「じゃ、次のは、先生のと同じ柄がいい」
青年が、からかうように言う。
「ん、カカシくんは、金魚とか、朝顔とか、そういうのが似合うよ。まだまだ」
「えー、格好よくない」
「スタイリストが二人に増えた」
くすり、とサクモがまた笑う。
戦場にあってもこどもは成長する。
さすがに自分はもう、身長は伸びない。筋肉がつくだけだ。
青年は、サクモの胸元に目をやる。
サクモは痩せた。
激務。季節。
本人に指摘したなら、それらの理由が挙げられるだろうが、それだけではない、と青年は見抜いている。
精神的に、サクモは参っている。
心から安らぐということがない。
対処しなければならない、とわかっている。
だが、どう対処したらいいのか、青年はわからない。
自然な動作で、サクモは胸元を合わせ直した。
笑みを浮かべたまま、青年に視線を合わせる。
「カカシと、あなたと一緒にいて、不安など無いですよ」
「それなら、いいですが」
酒を注ぎ、飲み干し、青年は不公平だ、と思う。
サクモもカカシも、青年の心を読む。
それは構わない。便利でいい。
だが、自分はサクモの心も、カカシの心も読めない。
読んでいるに近いくらい、推察することは出来る。
だが、カカシはともかく、サクモが本気で心を隠そうとしたなら、青年に見破ることは出来ない。
「あなたに、何も隠したりしませんよ」
またも、サクモが回答を先に寄越す。
愛してくれたらいい、と思う。
肉の情欲を伴う激情を、サクモが自分にいだいてくれればいい。
そうすれば、何かが繋ぎとめられる気がする。
青年のその想いには、サクモは何も言わなかった。
カカシが最近にはなく、青年の膝にのぼってきた。
甘えるように、胸に頬をすりつける。
強く、青年はカカシを抱いた。
カカシを抱きしめたときにだけ広がる、安堵と幸福。
ずっと続くといい。
この生活が続くと、いい。
そのためなら、自分はどんなに汚れても、傷ついても構わない。
いくらでも、人も殺す。
だから。
金髪の青年は、ただ、カカシを抱きしめた。

何度も何度も、願った。
時が止まることを。
サクモとカカシと共に、三人で静かに暮らしていく。
それは、そんなにも大それた望みだったのだろうか。
サクモが心身を病み、青年を見分けることが出来ないことが起きるようになってすら、その時間が止まればいい、と彼は願った。
サクモは、もう戦闘に出ることはなく、その身を案じることはないのだから。
時空間忍術などというご大層な名の術を駆使するようになっても、時を止めることも、遡ることも出来ない。
しかし、金髪の青年は、今、すべての時間を抱きしめているのだと信じた。
この金髪の赤子に、すべてが存在する。
自分にそっくりな、金髪碧眼の赤ん坊。
かつて、カカシがサクモにそっくりなこと、イルカがうみのにそっくりなことを、なんらかの血の継承として頭で納得したが、そうではないのだと、知る。
大いなる力が、願いに形を与えたのだろう。
自分の血の直系ではなくても、この子はおれの子。
抱きしめて、最後の印を切り、術を発動させる。
金髪の青年の口許には、ただ笑みがあった。
世界が、彼に微笑みかけた。

ここに、金髪の少年の物語が終わり、ここから、金髪の少年の物語が始まる。

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