金髪の少年、赤毛の少女

波風ミナトの気持ちが誰よりもわかるのはうずまきクシナだったし、また、うずまきクシナの気持ちを誰よりもわかるのも波風ミナトだった。
二人とも、はたけサクモが好きで好きでたまらなかった。
ずっとずっと恋してきた。
金髪の少年と赤毛の少女が、銀髪の青年に争ってまとわりついているのを、大人たちは、サクモ自身さえ、微笑ましいものにとらえていたようだが、彼、彼女にとっては、真実の恋だった。
それがわかっているのは、ミナトとクシナ、互いだけだった。

「ん、クシナ。里の中を、そんなに戦場みたいに走らなくてもいいのに」
「そういうミナトだって、走ってるってば」
ミナトとクシナは顔を見合わせ、同時に背ける。
ミナトは、手早く印を切った。さっとその姿が消える。
「ミナト! 瞬身の術なんてズルい! 足なら負けないのに!」
地団太を踏んで悔しがった後、クシナは、下忍の本気で駆けた。
息を切らせてクシナは、大門に辿りつく。
「あ」「ん」の番所の前には、ミナトがいた。
「べー、だ。追いついたもんね」
クシナは、ミナトに向かって舌を出す。
「おれのほうが先に着いたんだから。サクモさんに、先にお帰りなさいって言うのは、おれだからね」
にっこり笑って、ミナトは言う。
「そんなの、追いついたから、関係ないですう。サクモさんが出るとき、最後に行ってらっしゃいを言ったの、あたしだもん。サクモさん、あたしにいちばんに、ただいまって言ってくれるってば」
「え! いつだよ! おれ、門の前まで送ったのに!」
ミナトは、青い瞳に強い光をたたえる。
「ふっふーん、だ。あたしは渦の国の通行証を持ってるもんね。あたしは里の外まで送りましたあ」
「どっちがズルいんだよ! クシナのズルっ子!」
「ズルじゃないですう。忍者として、持てるものは全部、使うのが当然ですう」
「ズルいよ!」
ミナトは彼にしては珍しく、白い頬を紅潮させてまで、怒りをあらわす。
ミナトが彼の年齢にふさわしい子供らしさを示すのは、クシナの前でだけだった。
それは、大人の目には、微笑ましいものに映るのだった。
当のはたけサクモの目にも。
「相変わらずだねえ。君たちは」
門を潜るなり、目に飛び込んできたミナトとクシナの争いに、サクモは優しく笑む。
瞬間に争いをやめ、ミナトとクシナは、サクモのそばに駆けよる。
「おかえりなさい! サクモさん!」
見事に、声がユニゾンする。
「ん、おれが先に言うって、言ったのに!」
「約束してないもん!」
ミナトとクシナは、申し合わせたようにサクモの両脇にそれぞれくっつき、そこから相手を威嚇する。
サクモは、ますます眦を下げる。
「ただいま」
金色と、赤色の頭を、右手と左手で同時に撫でる。
満足した猫のような表情に、ミナトとクシナも時を同じくして、なる。
「花の国でね、珍しい菓子をいただいたから、みんなで食べようね」
「みんな? あのね、あたし、サクモさんと二人がいい」
「ん、お菓子はクシナにおれの分もあげるよ。だから、それ持って帰れよ」
また小突きあうミナトとクシナに、サクモは苦笑する。
「みんな、だよ。パックン達の分もあるから。みんなで食べよう。ミナト、クシナ、おいで」
それぞれに手を握られて、ミナトもクシナも、途端におとなしくなった。
サクモは、もう一度、優しく笑った。

大人たちは、サクモ自身さえ、微笑ましいものにとらえていたが、彼、彼女にとっては、真実の恋だった。
それがわかっているのは、ミナトとクシナ、互いだけだった。
ミナトがどんなにサクモを好きだったか、クシナは知っている。
クシナがどんなにサクモを好きだったか、ミナトは知っている。
悲劇の後、悲しみを共有できたのも、互いだけ。
波風ミナトの気持ちが誰よりもわかるのはうずまきクシナだったし、また、うずまきクシナの気持ちを誰よりもわかるのも波風ミナトだけだったのだ。

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