日光に行こう! 10(現代O阪人パラレル)(完結)

当然のように、日光カステラは、何か未知のカステラではなかった。
大型駐車場があって、ミナトに言わせると「うまいこと寄るようになっている」場所のようだ。
カカシには、広いフロアを占める多々な種類のカステラは驚きだったようで、ここで、隣家のイルカへお土産を買いたい、と主張した。
「ん! ええんちゃう? 二人で一緒に仲良う食べたらええ」
そう言って、ミナトがカカシに買ってくれた。

ホテルに戻って荷物を受け取り、駅に向かう。
行きは通りすがるだけであった店で、土産物を購った。
名物の羊羹を、自来也と綱手と大蛇丸、火影家に求めた。
サクモは、いちいち変なものにひっかかる。
彼なりの吟味に吟味を重ねた末、東照宮にあった想像上の象よりももっと不可思議な生き物の木彫りを買った。
「どうしますの? これ?」
ミナトが、感心と呆れ半分に問う。
「部屋に飾るの、あかん…かな? パソコンの横くらいやったら」
「いっつも、これ見ながら、仕事しますの? なんや、サクモさんのセンスが妙なことになって、仕事が減らへんかったら、ええけど」
「そんな、呪われそうなくらい、ひどい?」
「かかしは、かわいい、と、おもうけど」
サクモの不安そうな声と、カカシの真面目な声が重なる。
「ほんま、可愛いおんなじ顔して、趣味もおんなじように変わってるんやから。サクモさんが、ええんやったら、ええですよ」
ミナトは、諦めたように言った。

夕飯に駅弁を、それぞれに買い、帰りの列車に乗った。
個室をとった。
「今回、これに乗るんも、目的の一つやったんですわ。『旅と乗り物』誌への投稿の」
ミナトは、ゆったりとしたソファに満足そうに目を細める。
「てつどうのこしつやから、さつじんじけんが、おきるんやね。ほいで、まどから、ろーぷをひゅっとして、はしってる、やねにのぼって、けっとうするんやね」
カカシは、興奮している。
「ここ、ごごうしつ。ほんま、みんな、おなじつくりや。へやばんごうの、ふだだけかえて、とりっくに」
廊下を行って、個室に帰ってきて、大きく頷いている。
「どこで覚えてくるの、カカシくんは。ほんまに」
ミナトは嘆息する。
「あ、あかんやん! ふだ、すぐにとれへんし、まど、あかへん! みっしつとりっくのなぞは」
「二十一世紀の列車個室は違うんや」
サクモは笑って、カカシを抱きあげる。
「安全で、殺人は起きへん。ええことや。警戒するんは駅やね」
「サクモさんですか。変なこと、教えてるの」
ミナトは苦笑する。
サクモは、ミステリーやサスペンスが好きなのだが、良質なものはもちろん、トンデモない代物を非常に喜ぶ。
「なんで、こないに妙な趣味なんやろ」
呟くミナトに、サクモは首を傾げてみせる。
「趣味はええつもりやけど。ミナトがいちばん、ええと思てるし」
「みなとせんせいが、せかいで、いちばん、はんさむ、やねん」
カカシも語を継ぐ。
「ほんまに、もう」
個室をいいことに、ミナトは、カカシとサクモに、触れるだけの口付けを、それぞれに、した。
「かなわんなあ。ほんま。サクモさんとカカシと、どっちが一番かは知らんけど、おれが三番目なんが事実やからね」
「ミナトのほうが、妙な趣味なんちゃいますか」
サクモが微笑む。
「そんなん、ルーブルの学芸員も納得の、確固たる審美眼です」
ミナトは胸を張った。

弁当をつかったあと、窓外の景色を楽しんでいたカカシは、いつのまにか、サクモの膝を枕にして眠ってしまった。
愛しそうに、サクモは、我が子の銀髪を撫でる。
向かい側から身を乗り出し、ミナトは、サクモにキスを仕掛けた。
先刻よりはずっと長く、本格的なキスを。
「個室て、めちゃええですね。家に着く、一足先に、キスができる」
ミナトは、悪戯小僧の表情で笑う。
「いくら個室でも、廊下から見えます」
サクモは、いくぶんか頬を赤くして、小声で言う。
「誰もいませんて。密室です」
ミナトの笑みが、少し、意地悪くなる。
サクモは、慌てて両手を前に出す。
「これ以上、あかんですからね。家に着くまでは駄目です」
「ん! 帰ったら、反省会します。昨日の晩、おればっかりで、サクモさん、いかせてあげられへんかったし」
さらに腕をのばして、サクモはミナトの口を塞いだ。

旅はよい。
出来れば、同じ家から出かけて、同じ家に帰る人との旅がもっとよい。
旅を楽しんで、やっぱり、おうちがいちばん、と言い合える幸福は、他にない。
その幸福を増幅させるために、また、旅に出たくなる。
何度でも、行きたくなる。
だから、また。
日光に行こう。
ー波風ミナト筆、『旅と乗り物』誌より抜粋。

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