水滴

ベッド脇のテーブルに、奈良シカマルは、二本のスポーツドリンクのペットボトルを置いた。
そうしてから、懐より薬包を出す。
「うちの家伝の、滋養強壮剤ス」
ぶっきらぼう、と言える口調で言い、シカマルはベッドに上半身だけを起きあがらせている、はたけカカシに突きだす。
「ありがとう。けど、ま、とんでもないトコに精がついたら、どうしてくれるのよ」
アンダーに口布ではなく、珍しく寝巻き姿のカカシは薬を受け取り、素顔で笑う。
「本望ですね」
シカマルは、身を直角に曲げて、カカシに口付ける。
カカシはすぐに避けた。
「オレ、今回はチャクラ切れの果てに、抵抗力がなくなってたのか、風邪を引いてるんだから。うつるよ」
「それも、本望です」
シカマルは、ベッドに乗りあがる。
カカシの肩を抱き、本格的なキスを仕掛ける。
「やめなって」
身を捩ったカカシの手から、薬が滑り、ベッドからも落ちて床に着地する。
シカマルは、自家の大切な秘薬にも、かまわなかった。
カカシの胸元に手を差し入れ、上衣を脱がせてしまう。
首筋から、胸に口付ける。
「微熱、ありますね。リンパ液の匂いと、薬の匂いがする」
「だから、やめなって言ってるのに」
それでも、カカシは、本気の抵抗をしなかった。
シカマルは、いったん、カカシから離れ、服を脱いだ。
髪を縛っていた紐もほどき、当然の権利のように、カカシの横にもぐりこみ、カカシの下衣を剥いだ。
「思ったより、髪、長いねえ」
カカシは、シカマルの黒髪を指ですく。
「長いスよ。オマジナイのためスから」
影縛り、影真似、という、相手を縛る術を使うシカマルは、父シカクと同じように、髪を縛っている。
身体の一部に、術と同じ「縛り」を入れることで、効果を高める。
実効があるのかどうか、父もシカマルも知らない。
様式美、まじないのようなものにも、忍者は縋る。
実力、運、と言うだけでは済まないものが生死を分ける。
それが身に沁みているから。
「意外。髪をほどいて長いほうが、男っぽいし、大人っぽい」
「じゃあ、カカシ先生の前では、いつも、ほどいときます」
にやり、とシカマルは笑う。
「大人の男の顔だね」
どこか寂しそうに、カカシは言った。
「追い越されるのは嫌いスか?」
カカシの表情を目ざとく見咎め、手は、カカシの下半身を弄りながら、シカマルは問う。
「嫌いに決まってるでしょ」
言って、カカシは目を閉じ、与えられた刺激に、小さく身を震わせる。
「でも、先生だって、そうしてきたんじゃないですか? 順番てモンじゃないスか」
「オレはねー。追いつきもしないうちに、先生にも父さんにも、絶対に追い越せない場所へ行かれちゃったからねー」
「追い越せます。おれが、全部、追い越してみせます」
少年の純粋さと傲慢さを覗かせて、シカマルは言い切った。
カカシは、一瞬、シカマルを凝視して、その後、綺麗に綺麗に笑った。
「ナルトが火影になるのと、どっちが早いかな」
「早すぎる男は嫌われますんで」
シカマルは、さらりと言い、カカシの乳首を噛んだ。

初めて、二人は肌を合わせていた。
だが、何度も何度も繰り返してきたように、むしろ、飽いているかのような愛撫を、シカマルはカカシに為す。
カカシの前を熟れさせ、自身の成長を待ち、狭く締まった穴をほぐす。
想像以上に、そこは、きつかった。
想像以上に、カカシの内は、快感だった。
性器が溶けるような感触に、初めての感触に、シカマルは夢中になる。
本能のままに、腰を振った。
黒髪が揺れる。
性と聖の音が一緒であることは、偶然ではない、とシカマルは考える。
性行為は、聖行為だ。
だって、こんなにも、世界と一つになったみたいに、気持ちが良い。
シカマルは、カカシの奥にもう一つ、音が同じ、精を吐いた。

「病人を襲うって、卑怯じゃない?」
シーツと寝巻きを替えて、ベッドに横たわり、カカシはシカマルに怒ったような顔を向ける。
「里最強の上忍を、おれみたいなペーペー中忍が襲おうと思ったら、相手が弱ってるときしか、ないじゃねえスか」
シカマルは、まだ濡れた黒髪を、ぐしゃぐしゃとタオルで拭く。
動けない、というカカシを、術も使って、浴室に運んで洗い、ベッドのシーツもカカシの寝巻きも替えた。
自分もシャワーを浴び、一人前の男の顔を、シカマルはしてみせる。
「愛してます」
カカシの顔の上にかがみ、シカマルは真剣な声音を出す。
「あー、ヤダヤダ。子供だ、子供だ、と思ってたら、すぐ大人になる」
カカシは、床を長く白い指で、差す。
「薬、拾って、飲ませて」
「了解いたしました」
シカマルは言い、まずはスポーツドリンクのペットボトルを取る。
水分を保ったまま、薬包の粉薬を口内で溶かす。
そして、それを、カカシに、口移しで与えた。
テーブルに戻されたペットボトルと、カカシの唇の端から、薬を含んだ水分が滴った。

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