ユニコーン

全裸で、はたけサクモは白光刀をふるっていた。
木の葉の白い牙。
その名の由来となった、チャクラ刀と長い銀髪が。
雪よりも白い真白の肌が。
敵の血で赤く染まる。
サクモ自身が白光に包まれているような、戦いの女神のような、美しさが敵を恐慌に落とす。
そして、それは味方をも混乱に陥れていた。
波風ミナトは得意の瞬身の術を、もはや敵を倒すためには用いていなかった。
サクモを守るために、閃光となって駆ける。

戦闘終結してすぐに、サクモの姿が消えていた。
いつものことだ。
サクモは、政治の領域には近寄らない。
ミナトもまた、今回は長のつく立場ではないのを幸い、サクモのチャクラを追っていく。
月光のもと、サクモは森の泉で血を洗いながしていた。
月の光を受けて、髪ばかりではなく、皮膚も銀色に輝く。
サクモのそばに行こうとした、ミナトの足が止まった。
サクモの傍らに、白が舞い降りる。
白馬、いや、額に一本の角がある。
ミナトは息をのむ。
あれは、空想上の生き物だ。
けがれなき乙女しか触ることのできないという。
一角獣。ユニコーン。
戦酔いか。
ミナトは、自分の目と頭を疑う。
伝説の動物が見えるはずはない。
もし、ユニコーンというものが存在したとしても、サクモはカカシという子を産んでおり、返り血を浴びて人を殺してきたのであり、触ることなど、できないはずだ。
それなのに、サクモは忍犬を見る目つきと、撫でる手つきで、その生き物のたてがみに触れる。
それ、は、気持ちよさそうに、サクモの手の動きに任せている。
あれを追い払わなければ!
ミナトの本能が告げる。
だが、足が動かない。
「サクモさん!」
喉をふりしぼると、やっと声が出た。
サクモがミナトを振り返る。
一本の角を持つ生き物は、ミナトを嘲笑するような鳴き声をひとつ立てて消えた。
「サクモさん!」
もう一度、ミナトは呼び、水音も激しく泉のなかへと入る。
きつく、サクモを抱きしめた。
「だめです! あんなのに触っちゃ!」
「のせていってくれるって言ったんです。パックンより早く走れるんですって」
あどけない口調で、サクモは言う。
「だめです! 誰にでもついていっちゃ、だめですよ!」
「わかりました」
あっさりと頷き、サクモはミナトの胸に頬を寄せる。
「それからね、戦闘のときは服を着てください」
「でも、ミナト様が、服に血がついてると怒るから」
サクモは、小さく口を尖らせる。
「怒ってるんじゃありません。心配しているんです。いいですか、あなたが傷を負ったんじゃないかって心配なんです。血で汚れるとか、そんなこと、考えてません」
「わかりました。次は服を着ます」
「……まったく」
愛しい、愛しいひと。
空想上の生き物が誘いにくるのも、不思議がないようなひと。
サクモは、現世の何物にも染まらない。汚れない。
たぶん、この世界に置いておくほうが、不自然で難しい。
ミナトは、サクモの細い顎を持ちあげ、接吻する。
何度でも、何度でも、自分が印をつける。
この世に繋ぎとめる。
「帰りましょう。カカシが待ってますから」
サクモを繋ぎとめる、いちばん重い錨になる名を出し、ミナトはサクモを抱きあげて、水からあがった。

ユニコーン。
宗教的には純潔のモチーフとして美化されることが多いが、実際の伝説では、野菜畑を荒らし、作物を貪るとも言われていたようである。
ミナトは、百科事典を棚に戻し、ユニコーンになどサクモは渡さない、と声に出して呟いた。

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