横にいなよ

空気は冷たく乾燥して、だが、晴れ渡って、物がはっきりと見える日だった。
いくらか暖かくなってきた昼間、屋根の上に、カカシが顔の上にイチャパラをのせ、寝転んでいた。
「こんな寒い日に、先客がいるとは思いませんでした」
シカマルが、許可も求めることもなく、カカシの隣に横になる。
「ここ、いーい場所なんだよねえ。夏は涼しくて、冬は暖かで、火影岩まで、よく見通せるの」
カカシは、いつもの、のったりした声で言う。
「自分だけが見つけた新発見て思うもんは、たいてい、もうみんなが知っている真理なんスよね」
シカマルは、面倒くさそうに言う。
カカシは笑った。
「みんながってほどじゃなーいよ。屋根で昼寝するのが好きな奴くらいだよ。それ、そんなに多くなさそうじゃない?」
「たくさんいたら、まずいス。イルカ先生なんかに見つかったら、大声で叱られて、拳固をくらいます。昼寝は地上でしろって」
「あ、昼寝は別に、いーんだ?」
「屋根がヤバいみたいス。すっかり寝込んで、寝返りを打ったひょうしに、落ちて、自分が怪我するだけならまだしも、下の物、植木とか壊したり潰したら、大変だからって。おれは、これはイルカ先生の実体験に基づいているじゃねえかとふんでるんスがね」
カカシは声を立てて笑った。
「いーい先生だねえ。おまえたちも、いい教育を受けてる」
「アカデミーを卒業してから、そう、思うようになりました」
カカシもシカマルも、空を見上げる。
青い、青い、どこまでも青い空。
「オレの先生もねえ、いーい先生だったよ。早死にしすぎて、御礼の一つも言わせてくれなかったのが、唯一の難点」
「おれにも、そういう先生、います」
声が途切れた。
カカシは、シカマルに向きなおる。
本が、顔から落ちた。
口布を下げて、カカシは素顔を晒していた。
シカマルは、ごろん、と寝転がって、カカシの傍にいく。
キスをした。
抱きあうこともなく、唇だけを合わせ、シカマルはまた元の位置に転がった。
「すんません。おれ、別の場所をさがします」
「いいよ。横にいなよ」
素顔のまま、笑って、カカシは言った。
「オレが寝返りを打って、落ちそうになったら、止めて。そうしたら、イルカ先生に叱られないでしょ」
「カカシ先生の先生とか、おれの先公、と先生に叱られませんかね?」
シカマルは、真顔で訊ねる。
「大丈夫だーよ。もし、叱られても、イルカ先生の拳固ほど、痛くないよ。最も恐怖の、イルカ先生の拳固を避けるのが、いちばんだと思わない?」
「そッスね」
シカマルは、同意の笑みを浮かべ、もう一度、カカシの傍に近寄った。
空の青さには、一点の曇りもなかった。

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