始めるのは、簡単だった。
好きだ、と告げたら、浮竹十四郎は、藍染惣右介の何も拒まなかった。
情事の後で、藍染は浮竹に言った。
「もう、髪を結ばないでくれないか」
そのとき、まさに髪紐を手にしようとしていた浮竹は、不思議そうに藍染を見る。
「俺が、髪をまとめているのは、いやか?」
「君が、項をさらしていることが、いやだ」
藍染は、そっと浮竹の首筋を、長い指で辿る。
「そうか。なら、やめておこう」
にっこりと笑い、浮竹は、髪紐を置いた。
「いいの? 動くときに邪魔にならない?」
「この長さなら、そうでも、ないさ。おまえが、いやだということを、わざわざ、する必要はない」
きっぱりと、浮竹は言いきる。
それ以上、問うこともなく、浮竹は、二度と髪を一つに束ねることはなかった。
まるで、藍染のために、そうしているのかと錯覚するような。
愛されているのか、と錯覚するような。
「僕に、何か、注文はない?」
藍染は、浮竹に訊ねる。
「うーん? うん、ああ、おまえは出来すぎてるくらいで、何も注文しようがないな」
本気で考えた後、浮竹は笑う。
「僕ばかりが、君にねだってばかりだ」
「そんなことも、ないだろう。おまえは、俺の好物もよく知っているし」
「そんなこと、護廷十三隊の全員が知っている」
「大袈裟だな、藍染は」
それこそ、隊の誰にでも見せる笑顔で。
思い知らされる。
自分は、浮竹にとって特別ではないのだと。
特別な何かではないのだと。
藍染だからではない。
浮竹は、誰の頼みでも、きいてやる。
誰が言ったのでも、髪を結ばないでくれ、と願われたら、叶えてやるだろう。
それなのに。
まるで、愛してでもいるように、浮竹は藍染に抱かれて、歓喜の声をあげる。