父さんが鳩になって

買い物から帰るブッダの傍らに、白いハトが舞いおりてきた。
嘴に、オリーブの小枝をくわえている。
「あ、なんだ、イエスのお父さん、こんにちはー。この枝、くれるんですか?」
ブッダは気軽に枝を受け取る。
「すまんな、ブッダくん。いつも息子が世話になっているのに、この間は、滅びよ、なんて言ってすまなかった」
ハトは胸を膨らませながら言う。
「ゲーム屋でのことですか? 気にしてませんよ。実際、シャカ族は滅びてますし」
「いや、すまん。イエスが呼び出して、頼み事などするから、はりきってしまった」
「わかりますよー。私も難しい年頃の息子がいますし」
難しい年頃だったのは、2000年前のことで、現在は別の意味で難しいのだが、そのへんは、まあ、置いておく。
「おお、ブッダくんには息子がいらしたな。イエスも息子がいても不思議はない年だ。私にも孫がいて不思議は無いのだなあ」
くどいようだが、2000年単位の時間とか、教義とか、悩める父には関係ないらしい。
聖霊と父と子と孫になったら、三位一体は崩れるし、語呂も悪い、などとは賢明なブッダは言わない。
「やはり、あれかな、こどもの頃、育てていない父親というのは、どうも、いかんな」
ハトは、くうくう、胸を膨らます。
「いえ、それを言ったら、うちの母さんなんて、私を産むのに腹を痛めてませんし」
ブッダが出家すると言ったとき、お腹を痛めて産んだ子じゃないから、と泣き崩れた母であった。
「まあ、それぞれの家庭はそれぞれということで」
ブッダは強引に話をまとめる。
「さすがブッダ君、いいことを言う、では、光あれ!」
気が済んだのか、ハトはぱたぱたと飛んでいった。
と思ったら、いきなり、虹が出た。
「今日のことはイエスには内密に」
おじさん、内密になってないから! とオリーブの小枝をくるくる回しながら思ったブッダだった。

小枝を見ているうちに食べたくなったので、菓子の小枝を買ってかえり、おやつにイエスと食べ、カロリーの摂りすぎをちょっと後悔したのは、それこそ内密の話である。

戻る