カカイル前提ミナサク 『黄金の稲穂。』 第一話。 |
波風ミナト。 木の葉を代表する忍び。『黄色い閃光』と呼ばれ、彼が戦場に経てば敵は戦意を失い恐怖を感じ逃げ惑うと言う。 強大な忍術・強大な力・強大な指導力を持つ忍び。齢二十五にして、四代目火影となった男。それが波風ミナト。 ++ 「…先生……」 「なーに?カカシくん♪」 焚き火を前にして、ミナトは快活な口調で返事をした。天空には夜空を支配する星達が光り輝き、森は静寂を保っている。 パチパチと火花が散る音だけが耳に入る。この奥深い森で、はたけカカシは隣に座っている男に声を掛ける。 「どうして、今回の任務は先生が…いいえ、四代目が出られたのですか?」 「もー四代目なんて、そんな言い方しないでよ。いつも通り、先生で良いよ。カカシ。」 ニッコリと微笑んで、四代目と呼ばれた男は、はたけカカシの素顔を隠す面を取り上げる。 「あ!ちょ、ちょっと先生!オレ、暗部なんですけど!勝手に面を取らないで下さいっ!」 カカシは手を伸ばして獣の面を返してもらとうするのだが、リーチ差があり、四代目、もとい先生と呼ばれた男は面を高々と空に上げるので取り返せない。 「あはは、別に二人なんだから、いーじゃないの。お面なんてさ。」 楽しそうに先生と呼ばれた男が笑う。それを仏頂面だが縦傷が走る左眼を閉じたままで、カカシが睨んだ。 「……先生、質問に応えてくれてませんけど。」 仏頂面でカカシが渋々声を出す。 「あー、あれ?何で火影なのに任務に出たかって?」 カカシから奪い取った面の先端で器用に頭を掻きながら声を出す。 「それは…この四代目・波風ミナトが適任だと思ったからだよ。火影が任務に出ちゃ行けません。って規則ないもん。」 「なワケないじゃないですか?たかが、山賊の殲滅ですよ?暗部一個隊で十分だったハズです。それに、先生は体力を温存していました。いつもなら、瞬殺出来る相手もチャクラを使わないようにしていたし…どうしてですか?」 「………もー、相変わらず、可愛くない子だね。せっかく、カカシと二人でお話出来るってのに。」 プ〜と頬を膨らませながら、四代目火影…ミナトが言った。 「………先生…?」 ミナトの言葉にカカシは怪訝そうな表情を見せる。それを見て、ミナトは溜め息を零した。 「も〜、真面目過ぎるなぁ。カカシは、オレはね、カカシのコト、気になっていたーんだよ?最近、暗部の任務ばっかりで、ゆっくり話出来なかったから…たまには良いでしょ?二人で話し合うのもさ。」 「…………すみません。」 カカシはこの時、ミナトの意図を知る。気まぐれでも火影の業務から逃げるワケでもなかったらしい。 ただ元部下の自分との時間を過ごす為に、火影であるにも関わらず、わざわざ、カカシを指名して、ツーマンセルでの任務に赴いたのだ。 「まぁ、そんなコトは良いから。任務も無事に終わったし、里に戻るまでは、のんびりと話でもしようじゃない。最近のカカシのコト、聞かせてよ。」 そう言って、ミナトは優しくカカシに笑いかける。 「………別に……特に変化はありません。写輪眼も移植後、これと言って問題はありません。すべて順調です。」 淡々とした口調でカカシが答える。それを聞いて、暗部の面を頭に掛けて、ミナトは首を左右に振る。 「あ〜、ウソウソ!カカシ、先生を騙せると思ってんの?」 「…え?」 ミナトの言葉にカカシは首を傾げる。 「君、任務が終わると、いつもある場所に行ってるそうじゃない。」 ニッコリと微笑んで答えると、カカシの顔色が変わった。 「なっ!先生っ!な、何で知っているんですかっ!」 カオを赤くしてカカシが叫ぶ。それを見たミナトは嬉しそうに答えた。 「あはは!火影の情報網を甘くみなーいでよね?海野さんの家の付近にいるんだって?どうして、声掛けないの?」 「………そ、それは……」 胸に手を当てて、カカシが俯いた。 「海野さんは気が付いてるみたいだよ?」 「………知ってます。いつも…海野さんの家が良く見える大樹の上から見てて………目が合いますから……」 「それじゃ尚更じゃない。海野さんに用があるんじゃないんだろ?」 「……別に…用件があるワケじゃ……ただ…カオを見たくて………」 「カオ??」 「…………海野さんの息子さんです。」 「…あ〜!イルカくんか!」 ポンと手を叩くと、カカシは恥ずかしそうにコクンと頷いた。 「先生、知ってる癖に、わざと言わせましたね?」 頬を微かに赤く染めたカカシがミナトを睨む。それを笑顔でミナトが受け流している。 「あはは〜。なーんのコトかなぁ…?…まぁ、ちょっと安心したよ。」 「…え?」 「だって、カカシが誰かに興味を持つなんてねぇ…これを知ったら、オビトもリンも安心するよ。」 亡き仲間の名を声に出しながら、ミナトはカカシの肩に手を置いた。 「二人を失ってからのカカシはずっと闘っていたから……だから、心の拠り所が出来たのかな?って思ったら、嬉しくてね。」 優しい眼差しでミナトはカカシを見つめた。その視線を受けた後、カカシは俯きながら、自分の気持ちを吐露する。 「……あの子の笑ったカオを見ると安心するんです。心が落ち着くと言うか…この子が笑っていられるように…里を守ろう…そう思うんです。」 穏やかな表情でカカシが呟くように声を出した。 「……直接、会って話すれば良いのに。」 「ダメです。オレの手は汚れるから…綺麗なあの子に近づけない…触れられません。」 「カカシ………」 ミナトはカカシの悲痛な気持ちを知り、胸が痛む思いがした。 写輪眼を移植後、わすか12歳で暗部に入隊し、数々の過酷な任務をこなしてきたカカシ。 オビトとリンを失った後、やっと心の拠り所を見つけたと言うのに、それに近づくこともしようとしないカカシ。 ミナトは可愛い弟子の苦しんでいる姿を見て、何とも言えない気持ちになった。 ミナトは、カカシの肩に置いていた手を頭に移動させてカカシのカオを上げさせ、視線を合わせながら声を出した。 「…カカシ、良く聞いてね?『今』はイルカくんと直接話せなくても、いつかは真正面から語り合える…心を通い合わせられる…これは本当のコトだから、それまでは、生きるコトもイルカくんのコトも諦めちゃダメだ。分かったね?」 「……先生?」 真剣な眼差しでミナトがカカシに告げる。カカシは何も言えないまま頷いた。それを見たミナトも満足そうに頷く。 「よし!それじゃ、今度はオレの話を聞いてもらおうかな。」 カカシの頭から手を離して、ミナトは背筋を伸ばした。 「話…?火影業務のコトですか?」 「いやいや、そんなんじゃないよ。」 「それじゃ、クシナさん…?それとももうすぐ生まれる、先生のお子さんの話ですか?」 カカシが首を傾げながら、尋ねるのをミナトを首を振って答える。 「違う、違ーうよ。オレの昔話……」 何か愛おしそうなモノを見るような眼で、サクモが言った。 「…先生の?」 カカシが不思議そうな声を出した。 「そう…………カカシにはちゃんと知っていて欲しいから。」 そう言って、ミナトはカカシに語り始めた。 +++ 「おい、サクモ。コッチにいるかのう?」 遠く離れた場所から男の声が聞こえた。名を呼ばれた男は、降ろしていた腰を上げ立ち上がり、声の方に視線を向ける。 「自来也様。」 肩に掛かっているタオルでカオや首の汗を拭き取りながら、サクモと呼ばれた男は、自来也と言う男に頭を下げた。 「よせ。サクモ。いちいち、頭を下げるでないのう。」 「そりゃ、頭は下げますよ。三忍と呼ばれる自来也様じゃないですか。」 下駄でドカドカ音を立てて、近づいて来る自来也に向かって返事をした。 「相変わらず、真面目な奴じゃの〜。まぁ良いがな。しっかし、久しぶりにお前の田畑に来たら、見事な黄金の稲穂よの〜。良く育っておるな〜。」 着物姿の自来也は胸元をはだけさせ、片手をその胸元に納めている。 ココは木の葉の里の一角の田畑。持ち主である、はたけサクモが稲作を育てている畑だった。サクモに用のあった自来也は当たりをキョロキョロと見渡しながら声を出していた。 「そうですね、今年は豊作かも知れません。戦争も少し落ち着いてくれた……おかげで、こうして、田畑を育てられる。ありがたいコトです。」 カオを田畑に向け、サクモは優しい表情で自分が育てた稲穂を見つめる。その姿を自来也は無言で見つめた。 「……」 「あ、自来也様、今日はどう言ったご用件ですか?」 サクモは視線を自来也に向ける。サクモに言われ、自来也は本来の用件を思い出す。 「おお、そうじゃったのう。実は……三代目からの命でな、ちょっと、大門まで来いとのコトじゃ。」 「大門…?」 「おお、何でも、漂流者が来ておるらしい。」 その言葉を聞き、サクモはすぐに頷き、自来也と共に大門へと向かった。 「おお、自来也にサクモ。」 大門に到着すると、そこにはすでに三代目が門番と一緒に立っていた。 「三代目、遅くなって申し訳ございません。」 サクモは三代目の側で片膝を付き、頭を下げる。自来也は謝罪の言葉を口にせず、小指で耳の穴を弄くっている。 「まぁ、良い。気にするな。自来也など、この通りじゃしな。」 「……………で、サクモ連れて来てやったのう。用件を早く言え。ジジィ。」 耳から小指を離し、その先端に息を吹き掛けて自来也が言った。それを聞き、カオを上げて、サクモが声を出す。 「……漂流者がいると………そちらの方ですか?」 大門の外に立っている男にサクモが視線を向ける。自来也も三代目も同様にその男に視線を向ける。薄汚れ、至る部分が切れている服を纏い、痩せ細った男が立っている。 「ああ、そうなんじゃ……」 三代目が返事をした途端、大門の外で立っている男が、腰を下ろして両膝を付いて大声を張り上げる。 「頼みます!頼むから…!オレとこのガキ………この息子を木の葉の人間にしてくれっ!」 深々と頭を下げて、男が叫ぶ。その隣には無表情でコチラの様子を伺いっている子供が立っている。 三代目も自来也も、立ち上がったサクモも、男よりも薄汚れた恰好の子供に視線が向いている。腕や身体が見るからに骨だけで今にも折れてしまいそうだ。 「…戦争で、生まれ里を失って、ずっと…漂流していた…!頼む!コイツを…息子を木の葉の忍びにしてくれ!コイツには才能があるんだ!絶対にこの里に利益をもたらす…!だから…っ!」 地面ギリギリに頭を擦り付けながら、男が声を荒げている。 「……避難民は受け入れると言うておるではないか。さ、里に入ると良い。」 男に近づき腰を下ろして、男の肩に手を掛け、三代目が答えると、男は首を横に振って声を出す。 「ただ数日、寝泊まる場所を提供してくれるだけじゃダメなんだ!息子に忍術を教えてくれっ!そしてオレ達を木の葉の民にしてほしい!」 カオを上げ、必死の形相で三代目に食い付いた。 「しかし……そう簡単には………」 三代目が困惑している。それは仕方ないコトだった。 今は戦争中。 各国は隙あらば攻め込もうとしてる情勢だ。一触即発の状態で、いつ敵が攻め込んでくるか分からない。 力の衰えている隠れ里は、漂流者を使って、勢力のある隠れ里の内部に、一般人として侵入して長の首を取ろうとする里もある。木の葉の里も最近、その被害に合い、警戒を強めていたのだった。 その結果、三代目も突然現れた漂流者に忍術を教えて欲しいと言われ困惑していた。本当に避難民かもしれない。しかし、敵の間者だったら…? 忍術を教えると言うコトは、里の財産を渡すと言うのも同じである。簡単に返事が出来るワケがなかった。 「まぁ…世界の情勢が悪いからの…疑うのも仕方ないが……ジジィ。ココは試してみるってのはどうだ?」 背後に立っている自来也が声を出した。一同、一斉に自来也に視線を向ける。 「何を言い出すのじゃ、自来也。」 「男の方はどうみても一般人…で、そこのガキに忍術を教えろって言ってんのじゃろう?それなら、その子を試してみれば良い。」 「自来也様……それは……」 「見たところ、おしめも取れてそうにないガキじゃねぇか。生きるには力が必要だ。それに…この男が何を根拠に才能があるのかも気になるしのう。」 つい最近まで雨隠れの里で戦災孤児の子供の世話をしていた自来也だ。 痩せ細ったその子を姿を見て、戦争の悲惨さを痛感し、それと同時に世話をしていた子供達を思い出ていた。その子を見て、あの子達のように、一人でも生きているだけの力を身に付けさせたい…そう思った。 「分かった。お主がそう言うのなら、それでよかろう。」 自来也の言葉に賛同して、三代目が立ち上がりながら、男に向かって声を掛けた。 「身体の疲れを癒された後、この子が忍びとしての才能があるか、調べさせてもらおう。」 「あ、ありがてぇ…!!本当にありがてぇ…っ!!」 男は何度も礼を口に出し、頭を下げてた。その隣に立っている痩せ細った子供は無表情で大人達の会話を聞いていた。その姿をサクモも無言で見つめていると、その子供がサクモの視線に気付いて、サクモをジッと見つめた。 それが、はたけサクモと波風ミナトの出会いだった。 Next> 2009.06.12 |
プラウザを閉じてお戻り下さい。