カカイル前提ミナサク


『黄金の稲穂。』


第四話。







サクモが自死して二日後、しめやかに葬儀が執り行われた。任務を放棄し、自ら命を絶ったサクモは英雄とされず、慰霊碑にその名を刻むコトは許されなかった。

サクモはひっとりとはたけ家代々の墓へとその魂は眠るコトになる。


葬儀に参列したのは、ミナト・カカシ・三代目・自来也と綱手。そして、海野夫婦とイノシカチョウの異名を取る三人のみだった。




そして一般人ではあるが、サクモとよく口論していたと言われている、ミナトの義父・波風ソヨグはサクモの葬儀には参列しなかった。


いや、参列しなかったと言うより、出来ない状況にあった。

何とサクモが自死した日、火の国の国境にて、野犬に襲われた波風ソヨグの遺体が見つかったのだ。ミナトは大切な人間を二人も一度に失うコトになったのだった。






++






「………これから任務に行きます。」

葬儀を終え、自宅に戻るといつもの忍服に身を整えたカカシが言った。

「何、言ってんの。カカシ。任務は良いよ。しばらく休まないと……」

カカシの肩に手を置いて、ミナトが声を掛けるが、カカシはその手を振り解いた。

「いいえ。任務遂行が最優先です。」

無表情でそれだけ言って、カカシは家を出て行く。ミナトは追いかけるコトが出来なかった。

ミナトは一人、はたけ家に残り、居間の入り口に立ち竦んでいる。二日前、この場所でカカシと二人、サクモの遺体を発見した。ミナトはその場所に踞る。胸の奥から迫り上がってくる感情を抑えられくなった。

「……サクモさん…!どうして……!!どうして、オレは…!」

ミナトはサクモを救えなかった自分を責めた。心の中に埋められるコトのない大きな空洞が出来た。

一人、慟哭を吐き出した後、重く感じる身体を引きずりミナトは、はたけ家を出る。フラフラと木の葉の里を歩いていると、いつの間にか、サクモが育てていた田畑の前に立っている。その場に立ち、ミナトは黄金の稲穂が揺れる風景を眺めていた。

サクモに手を引かれ、初めて見た黄金の稲穂。サクモの温かい笑顔。ミナトの胸に大きな哀しみが広がっていく。サクモと一緒にこの風景を見つめていた頃、永遠の別れが来るコトなど、想像もしていなかった。

暫くその風景を眺めていると、誰かが近づいて来る気配を感じた。その気配のする方に視線を向けると、そこには渦の国のくの一、うずまきクシナが立っていた。

「……………クシナ……?」

「………ミナト………その……」

クシナとは10歳の時、他里と合同で行う中忍試験で出会った。その試験当時は、互いにライバルとして、中忍の資格を得る為に競い合った相手だ。ミナトはクシナと8年ぶりに再会した。

「………アンタの父さんと……はたけサクモさんのコト、聞いて…アンタが泣いてるって思ったてばよ…」

美しい女性に成長したクシナは哀しそうな眼でミナトを見つめていた。ミナトはそのクシナにゆっくりと近づいて行く。

「父さんのコト、何だかんだ良いながらも面倒見ていたし…それにアンタは昔っから、サクモさんのことばっかり言ってたから……それで……」

続きの言葉をクシナが言う前に、ミナトの手がクシナに伸びて行く。そっと伸びてきた手が、クシナの身体を掴み包んだ。ミナトの身体が密着されるのをクシナは抵抗しようとしなかった。

「…………オレは…何も…何も告げていないのに……!……あの人を……永遠に失ってしまった……!」

クシナの肩に口元を置いたミナトの声が震える。クシナは何も言わず、そのミナトの身体を抱きしめた。







++






サクモを失ってから6年の歳月が流れた。その間にもミナトの周りを始め、木の葉には様々な出来事が忙しく過ぎていく。戦争は絶え間なく続き、各国に大きな傷を刻みながら、木の葉の里も己を守る為に闘い続けていた。

そんな中、父親を失い、仲間を救うより、任務遂行のみが正しい道だと信じて生きていたカカシを仲間が救ってくれた。

その仲間…うちはオビトは、カカシの人生にに大きな影響を与えたと同時に、写輪眼と言う特殊な瞳術を持つ眼を与えて、その短い生涯を閉じる。


それと同時期に長年続いた戦争は終わりを告げ、やっと平和の足音が聞こえ始めていた。




戦争が終結すると同時期、ミナトは三代目より、四代目火影の襲名を受けるコトとなる。

波風ミナトは所詮は外部から来た人間だ。しかも父親は、山中で野犬に襲われ死亡した。そんな男の息子を火影にするのかと、不服を唱えた大蛇丸は三代目から隠れて、何度も人体実験を繰り返した後、里を抜けた。自来也はそれを己の責とし、大蛇丸を探す旅に出て行く。


その自来也が旅立つ直前、ミナトは四代目火影となり、伴侶として元渦の国のくの一・うずまきクシナを妻に迎えていた。



そんなある日、任務を終えたカカシが、ミナトの元へ訪れた。



「先生、ご結婚おめでとうございます。」

「………あ、うん。ありがとう。カカシに言われると照れちゃうなぁ。」

ニッコリと笑顔を浮かべて、返事をすると、カカシも嬉しそうに眼を細める。相変わらず、口布や額宛で表情を隠しているが、オビトから写輪眼を譲り受けた後のカカシは、憑き物が落ちたかのように、穏やかで落ち着いた表情を見せるようになった。



「先生には幸せになってもらいたいから、オレ、とっても嬉しいです。」

眼を細めて嬉しそうに語るカカシを見て、ミナトも嬉しくなる。

「…カカシはサクモさんに似て来てたねぇ…いつくになったんだっけ?」

「えっと……もう15です。」

「そっか、オレがサクモさんに初めて会ったのは…確か、サクモさんが18の頃だったかな?それじゃ、どんどん似てくるだろうね。」

「あはは、そうかもしれませんね。」

軽い雑談を交わしていると、カカシがポーチから巻物を一つ取り出す。

「………これは?」

「これは、父さんの残した巻物です。先日…やっと気持ちの整理がついたので、父の遺品を片付けようと書庫を覗いたら、この巻物が出て来ました。」


「……サクモさんの…?」

カカシから手渡して受け取った巻物に視線を向ける。何重にも封印されている巻物だった。

「……何か大きな術だとしても、今のオレに扱えるかどうか……先に先生にお見せした方が良いのではと判断しました。」

忍びとして判断をカカシが見せる。それに頷きながら、ミナトは返事をした。

「分かった。これはボクが調べさせてもらうね。ありがと。カカシ。」

ニッコリと笑顔を浮かべてミナトはカカシに礼を言った。しらばくして、カカシが自宅へと帰宅した後、ミナトは自室にて、受け取った巻物の開封を試みる。何重にも厳重に封印されている巻物の正体を知った時、ミナトは愕然とした。







++






「……先生は、戦災孤児だったんですか…?」

「うん。そう、木の葉が受け入れてくれなかったら、オレ、今頃、野党にでもなってたんだーよ。」

焚き火を前にして、ミナトは自分の幼少の出来事をカカシに話して聞かせていた。

8歳にして義父に連れられて木の葉を訪れ、里の人間になったコト。それから忍びとなったコトなど。初めて聞いたミナトの出生にカカシは驚きを隠せなかった。

「………でも、外部のボクもが木の葉の忍びになるにはもー、大変でねぇ…サクモさんには本当に良くしてもらってねぇ…言葉では言い表せられないくらいにね。」

「……そう…だったんですか……」

「サクモさんや自来也先生のおかげで、ボクは無事に忍びになれて、この里の住民となった…そして、カカシが生まれた。ボク、カカシが生まれた時、弟が出来たみたいでとっても嬉しかったんだーよ。」

「………先生……」

「そして……カカシもボクもサクモさんを失って…互いに父親を失ってしまったけど……今はこうして、前を向いて踏ん張っている!ま!そんなボクももう火影だしね。」

片眼を閉じて、笑みを浮かべると、カカシが苦笑いを零す。

「あ、そうそう、こっからが大事な話だよ。カカシ。」

急に真面目な声になったミナトをカカシは背を正して見つめた。

「はい。」

「あの…三ヶ月前にカカシから、受け取った巻物があったでしょう?あれが何の巻物だったか分かったんだ。」

「…!はい!」

すぐに思い出したカカシは首を縦に振って答えた。それを見たミナトはすぐに言葉を返す。

「あれは、サクモさんが最後に残した術……時空間忍術の術式の書かれた巻物だった。」

そう言いながら、ミナトはポーチから以前受け取った巻物をカカシに返した。

「時空間忍術…ですか?」

巻物を受け取りながら、カカシは戸惑いの表情を見せる。

「時空間忍術は多大なチャクラを消費するんだ…だから、今、写輪眼でチャクラを使い過ぎるカカシには使いこなせない忍術だけど……でも、覚えていて。カカシが写輪眼を通して更なる力を手に入れる時、それは時空間忍術だ。」

「……え?」

ミナトの言葉にカカシは困惑した表情を見せる。それを真っ直ぐに見据えたミナトがカカシに言い聞かせた。

「ある程度のチャクラコントロールが出来るようになった時、写輪眼と時空間忍術を使いこなせるようになる。それまでは修行を怠ってはいけないよ。分かった?」

「…………分かりました!」

ミナトの言葉にカカシは大きく頷いた。それを見たミナトは満足そうに微笑む。

「今回の任務の目的はね、この巻物をカカシに直に手渡すコトだったんだーよ。」

「え?そんな…巻物を渡す為にわざわざ、火影が任務に出なくても…里で手渡されても……」

ミナトの言葉にカカシは驚いた。そんなカカシを見て、ミナトはニッコリと笑みを浮かべた後、頭を優しく撫でる。

「いやいや、サクモさんの残してくれた大切な巻物だからね。これは誰にも邪魔されずにちゃんと手渡ししたかったんだ。」

「……先生……」

「カカシと話が出来て良かった。良いかい?覚えておいて欲しいんだ。田畑で天を目指して育っている稲達は明日、苅られると分かっていても、その成長を止めたりはしない。だから…カカシも諦めちゃダメだ。何があっても………良いね?」

ミナトはカカシにカオを近づけてて、頭を撫でながら言った。その言葉をカカシは受け止め、大きく頷いた。

「はい…!」

「そして、好きになった子と幸せになりなさい。」

「……………!」

先程の話を思い出させられたカカシはカオを微かに朱に染める。

「あはは!照れちゃって!カカシは可愛いな〜。もう〜♪」

「せ、先生…!オレはイルカとはそんな…っ!」

「はいはーい!分かったから、さ!今日はもう眠ろう!明日の朝には木の葉に戻るよ!…火影のボクには大きな仕事が待ってるからね〜。」

カカシから手を伸ばして、ミナトは立ち上がり、背筋を伸ばした。それをカカシは黙って見つめた。

それから数刻後、焚き火の前で、カカシが先に夢の世界へと旅立った。ミナトはそのカカシの寝顔を優しい眼差しで見つめている。

「……巻物を渡す為にわざわざ、火影が任務に出なくても……かぁ…」
カカシに言われた言葉を思い出す。



確かにカカシの言うとおりで、今回の盗賊殲滅任務は火影であるミナトが行う任務ではない。が、しかし、ミナトには時間がなかった。


「……明日は運命の日……今日しか、カカシとゆっくり話せなかったんだ……ごめんね。カカシ。」


ミナトはゆっくりと目を閉じる。そして、カカシに告げられなかった事実を心の中でそっと想い出しながら、愛しい人の名を呼んだ。



「……………サクモさん………」







++








カカシがミナトに手渡した巻物の正体を知った時、ミナトは驚愕した。それはサクモが独自に開発していた時空間忍術の一種だ。

しかも高度なSSSランクの忍術。クナイなとを目印にして空間を移動する時空間とは違い、特定の人への想いを目印にして飛ぶ時空間忍術だった。

大量のチャクラを消費する術だが、この術を正式に使いこなせれば、過去にも未来にも自由に移動するコトが出来る究極の忍術だった。


ミナトはこの巻物の正体を知った時、大きな誘惑に襲われた。それはこの術を使えば、過去に飛び、サクモを救えるのではと考えたのだ。

ミナトの心は大きく揺れ動いた。大きく迷った。過去を変えるなど、どの偉大な忍びでも成し得ていない。

過去を変えるコトによって、現代にどれほどの歪みが生まれるか…そんな危険もある。それを火影である自分がやっても良いのか…ミナトは悩んだ。


しかし、ミナトは麻薬のように甘く感じて逆らえなかった。




未来を変えても良い。サクモを救えるのなら。




ミナトは迷いを捨てて、サクモのコトだけを考え、その術を発動させる為に印を結んだ。そして、サクモ自死の事実を知るコトになったのだった。







Next>







2009.06.12



プラウザを閉じてお戻り下さい。

2style.net