金髪の少年 10

「御伽噺として忘れる、とおれは言いましたが、何点か、覚えていて確認をとってもいいでしょうか」
サクモを見つめたまま、金髪の青年は言う。
変わらない笑みを、サクモは返した。
「はい。そのつもりで、お話ししました。あなたが、いちばん良いようにしてくださる。カカシにも。私にも」
「もちろん。カカシくんはおれの命そのものですし、サクモさんは、おれの恋する人ですから」
青年は、サクモの銀色の髪に触れた。
もう、指は震えなかった。
「そのときが来たら、あなたもカカシもおれの剣になってもらいます。ですが、日常に命令はありません。おれは、全てを抜きにして自分をあなたに恋うてほしいと思う、欲望で醜いだけの人間です」
サクモは腕を伸ばし、青年を抱き寄せた。
青年がしたのと同じように、いや、年長者の慈しみを持って、サクモは金髪を撫でる。
その眼前の、青年の顔の位置に初めて気づいたように、サクモは嘆息する。
「ほんとうに大きくなられた。カカシも、すぐに大きくなってしまうのでしょうね。ずっと小さいままでも、困りますけど」
「あなたは変わらない。全然、変わらない」
青年も、サクモの背に腕を回した。
綺麗な、浮世離れした、綺麗な、銀の髪の若い男。
サクモは言った。
「あなたは立派に、美しくなった。誰でも、あなたに恋をするでしょう」
まるで少女が憧れているような、サクモの言葉。
それは、少女が少年を拒絶するような言葉。
言外に、自分はそうではないことを示す、残酷な言葉。
それでも。
「帰ったら、またシチューを作ってくださいね。ん、人参は無しか思い切り少なめで、赤蕪をたっぷり入れてください。ビーツというのですよね。おれ、それをちゃんと調達してきますから」
くすっと、サクモは笑った。
「わかりました。仙山式を作りましょう。それでも、人参は無しにはなりませんよ」
「なるべく、少なく、で」
青年は悟っている。
自分の恋う相手は、決して自分に恋をしてくれない。
それでも。
この男は、自分の傍に存る。
カカシと共に。
ずっとずっと、一緒にいる。
それは、誰にも譲らない。
ずっとずっと、一緒にいるんだ。

停戦協定まで、時間がかかった。
だが、木の葉は思惑通りに事を進めることができた。
岩忍の戦力をかなり削ぐことができた。
土の国が戦争を仕掛けることは、当分、出来まい。
反して、戦力温存に成功した木の葉が、一気に土の国を叩くか、参戦できない土の国を押えておいて、他国へと駒を進めるか、後は政治の領域だ。
「あなたなら、どうします?」
帰里の途につきながら、金髪の青年は暗部装束のサクモに訊ねる。
「土の国は放置しますね」
サクモは、あっさりと答える。
「一気に叩く方策は、とりませんか」
「事実上、敗戦で帰るわけですから。国内は疲弊して、不満は溜まっています。放っておいても、現政権は崩壊する。改めて、国が一丸となって立ち向かう敵に、木の葉がなってやる必要はないでしょう」
「不思議だな。心を読まれましたか。おれも、全く同じ意見です」
冗談めかして青年が言うと、かすかにサクモの身体のバランスが崩れ、チャクラが乱れた。
「サクモさん?」
名を呼び、青年は駆けるスピードをわずかに落とす。
「申し訳ありません。なんでもありません」
すぐに、サクモは安定を取り戻した。
「疲れましたか」
青年は、サクモの真横に並ぶ。
「いいえ」
暗部面で、サクモの表情はわからない。
「……カカシのことが、急に不安になって」
「ああ、そうですね。式も飛ばせませんでしたから」
青年は、あっさりと肯う。
今度の戦は、長かった。
カカシは、健やかに成長しているだろうか。
父も、青年も居ない中で。
そうであって欲しいと願いながら、寂しがっていてくれなければ面白くない、とも思う自分に、金髪の青年は、苦笑した。

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