金髪の少年 19

どんな小さな変化も見逃さないほど、いつもサクモを見つめている金髪の青年だけが、気付いた。

大きな戦を控え、里じゅうが慌しい。
その中でアカデミー講師のうみのは、教職だけではなく任務や雑務に追い回されているようだった。
青年だけではなく、暗部を脱けて通常の上忍として任務しているサクモも、しょっちゅううみのに会うようになった。
アカデミーの受付で、三代目の執務室で、資料室で、他にもびっくりするような場所でも。
「うみの先生って三人くらい居るんじゃないっスかね」
受付で会った、幾つか年少の中忍、奈良シカクがそんなことを青年に言った。
「じゃ、分身を出して3×3で9人だね」
「それくらい居ると言われても、驚かないな」
シカクと同い年で同期の秋道チョウザ、山中いのいちも頷く。この三人はいつでも一緒で、イノシカチョウトリオと呼ばれている。
「給料もそれくらい貰えてればいいけど。ん、今の木の葉の里がそんなに大盤振る舞いしてくれるわけ、ないか」
青年が、本気をこめて言う。
「先輩〜。早く火影になって、なんとかしてくださいよ」
シカクが冗談めかして言った。
青年は肯定も否定もせず、苦笑気味の笑いを浮かべる。
「おれが火影になったら、報酬は上げるかもしれないけど、三代目よりもっときみたちをこき使うよ。使いやすいし」
「冗談に聞こえないっす」
シカクが頭をかかえて、皆が笑った。
その後も、くだらない話にこうじながら、青年はサクモの気配を察した。
噂のうみのと連れ立ち、何事か話しながら受付に入ってくる。
事務的な、すべてが任務に関わる話であることは、声が聞こえなくても、青年にはわかる。
それでも、嬉しい、と。
うみのの瞳の輝きだけが、告げる。
サクモは、外向きの穏やかな笑顔で対している。
すぐに、二人は離れた。
サクモに声を掛けようとして、青年は戸惑った。
うみのが視線を外してから。うみのがサクモに背を向けてから。
サクモは、うみのに瞳を当てていた。
その瞳には、うみのと同じ物が浮かんでいる。
まさか。
青年は声に出して叫びたいのを、かろうじて堪えた。
それから、何度も何度も見た。
視線を合わせることもなく。
もちろん、それらしい言葉を交わすことなどなく。
うみのの注意が自分から逸れてから。
サクモは、あの瞳の色になる。
うみの自身も気付いていない、うみのの想い。
サクモ自身も理解できていない、サクモの想い。
サクモは、宿命的にうみのに魅かれるわ。黒い髪、黒い瞳の、聖職者。
大蛇丸の言葉が、脳裏に蘇る。
そういうことか。
青年は、唇を噛む。
実る恋ではない。いや、実らせてはいけない恋だ。
サクモにはカカシがおり、うみのにも家庭がある。
一過性の遊びに出来るような性情では、二人とも、ない。
自分さえ何も言わず何もしなければ、何事も起こらないだろう。
むろん嫉妬はあった。
青年は結局、カカシにも、サクモにも、己だけを見ていてほしいと叫ぶ自分を承知している。
サクモが恋する相手が、自分以外だなど許さない。
だが、別の部分で、青年は計算している。
貴重な戦力の二人の忍者を損なうわけにはいかない。
カカシとイルカも、自分が裂いた。
そして、カカシを優秀な部下として出征させる。
馴染みとなった苦みが、青年を襲った。

予定通り、サクモを隊長とする先発隊が風の国へ出立し、早々に砂の里と交戦に入った。
すぐに、カカシを部下とした青年の隊も、後を追った。

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